GEISHA GIRLS”GEISHA “REMIX” GIRLS” – VINYL DEALER的日本語ラップ追究【26】

追究 … 未知のものや不明の事柄を調べて明らかにしようとすること

2023年の暮れから年始、現在もダウンタウン 松本人志の性加害疑惑騒動が続いていますが、相方の浜田雅功(H JUNGLE WITH T!)が活動休止について、ついにラジオで言及したのとほぼ同時に、同じく吉本興業のプラスマイナス 岩橋良昌がSNSのXで浜田雅功のパワハラを告発(その後ポストは削除)したことで松本人志だけでなく、何かコンビとしても不穏な空気が漂ってきたような…。
2024年、そんなざわつきの中、日本語ラップ追究カテゴリーですがタイムリー(?)な一枚をご紹介しておきます。

GEISHA GIRLS_GEISHA "REMIX" GIRLS_表
GEISHA GIRLS_GEISHA "REMIX" GIRLS_裏

GEISHA GIRLS”GEISHA “REMIX” GIRLS”
(FOR LIFE RECORDS/JPN 12″/FLJG-9001)

A-1 GRANDMA IS STILL ALIVE(T. MORI’S FLYING PHAT MIX)
A-2 GRANDMA IS STILL ALIVE
A-3 GRANDMA IS STILL ALIVE(INSTRUMENTAL)
B-1 KICK & LOUD(T. MORI’S LOUD MIX)
B-2 KICK & LOUD
B-3 KICK & LOUD(INSTRUMENTAL)

90年代中期、ダウンタウンが芸者(KEN/SHO)に扮し、坂本龍一プロデュースのラップユニットとしてまさかの全米デビュー(!)を果たしたGEISHA GIRLSは、コント染みた見た目とは裏腹に制作は本気の布陣。
元々、企画経緯はたまたま「ガキの使いやあらへんで!」の観覧に来ていた坂本龍一にダメ元でオファーしたら通った(!)というノリ先行なものでしたが、坂本龍一としてはYMOでスネークマンショーの前例がすでに在ったわけで、やるならば「90年代版のスネークマンショー」という位置付けにしたかったんだろうと。
本編はCDのみだった「THE GEISHA GIRLS SHOW(炎のおっさんアワー)」は坂本龍一と鄭東和=テイ・トウワ(TOWA TEI)を軸に、前田憲男、小室哲哉、ARTO LINDSAY、BOREDOMS、小林克也(スネークマンショー)等、錚々たるメンツが制作/客演陣に名を連ね、そんな豪華なプロダクションでダウンタウンの漫才やカタコトのラップが展開されるという、作品自体が壮大なボケと言えそうな一枚。
で、本編に先駆けた先行シングル”GRANDMA IS STILL ALIVE”のREMIX盤が12″化しており。

ダウンタウンの漫才「誘拐」と「心霊写真」を組み合わせた”GRANDMA IS STILL ALIVE”(坂本龍一プロデュース)は、ありものの漫才をアレンジしてBGMに被せただけなんで、コレをラップと解釈するのはさすがに店主もしんどいんですが、”KICK & LOUD”の方ではラップを披露。
テイ・トウワ作のヒップホップ・ビートに乗って、フックはSUPER LOVER CEE & CASANOVA RUD”SUPER CASANOVA”の「TO THE PARTYIN’ CROWD, IT’S FOR KICKIN’ IT LOUD」の一節という本格的な仕上がりで、主役の金切り声の拙いラップはともかく、途中OLIVER NELSON”FREEDOM DANCE”で転調する演出も含めて最高。
ちなみに、両曲のREMIXを手掛けたT. MORIこと森俊彦はAJAPAIの本名で、かつてはJAZZADELICメンバーとしてDJ SMASH主宰のNEW BREEDのV.A.「FAT JAZZY GROOVES」シリーズにも楽曲提供してた人なんで、こっちもしっかりとヒップホップ~ブレイクビーツ的なサウンドになってます。

GEISHA GIRLS_THE GEISHA "REMIX" GIRLS SHOW_続・炎のおっさん_表
GEISHA GIRLS_THE GEISHA "REMIX" GIRLS SHOW_続・炎のおっさん_裏

GEISHA GIRLS”THE GEISHA “REMIX” GIRLS(続・炎のおっさん)”
(FOR LIFE RECORDS/JPN 12″/FLJG-9006)

A-1 少年(T. MORI’S TUFF MIX)
A-2 ビー玉(T. MORI’S 12. B.O.G.G. MIX)
A-3 少年(U.N.K.L.E.’S REMIX)
B-1 BLOW YOUR MIND(森オッサン チョイチョイ キリキリまい)(KENNY DOPE REMIX)
B-2 BLOW YOUR MIND(森オッサン チョイチョイ キリキリまい)(SUNSHINE ENTERTAINMENT REMIX)
B-3 BLOW YOUR MIND(森オッサン チョイチョイ キリキリまい)(ORIGINAL LONG MIX)

続いて95年、アルバム本編の番外編的にリリースされたREMIX EP「THE GEISHA “REMIX” GIRLS(続・炎のおっさん)」も12″化。
AJAPAIことT. MORI(2曲!)、MAJOR FORCE勢とも親交が深かったMO’WAXの総帥、JAMES LAVELLE率いるU.N.K.L.E.(UNKLE)、KENNY DOPE(!)等がリミキサーとして参戦していますが、注目すべきは”BLOW YOUR MIND”のテイ・トウワによるオリジナル・バージョンと、次点でKENNY DOPEのREMIXかな。
KENNY DOPEは、ヒップホップとハウスをクロスオーバーする存在としてトラックスなんかも含めて多作だった時期で、こちらのREMIXでは”GET ON DOWN”と(奇しくも声ネタ使いが被ってる!)”DON DA DA”を足して2で割ったようなビートももちろん悪くないんですけど、テイ・トウワ作のオリジナル・バージョンは超えていないような。
フックのCRASH CREW(DISCO DAVE & THE FORCE OF THE FIVE MCS)”HIGH POWER RAP”のイントロのアカペラ使いがハマッているのは、明らかにオリジナル・バージョンの方。
“少年”のREMIXは、どうにかアカペラは使ったものの、どこかブレンドっぽい違和感が残るT. MORI仕事、インストにしたことでREMIXとしてはかなり薄味になってしまっているU.N.K.L.E.仕事共に、坂本龍一の美し過ぎるオリジナル・バージョンには及んでいないと思います。
一方、”ビー玉”(T. MORI’S 12. B.O.G.G. MIX)は、元々は添え物的だったフリートークっぽい語り部分をヴァースに見立てて、アコースティックな原曲から全く印象の違うヒップホップ・ビートに乗せ換えた作りで、オリジナル・バージョンと聴き比べるとなかなかに興味深い作りになっています。
前述の”GEISHA “REMIX” GIRLS”共々、リミキサーがクラブミュージック寄りの人選かつ海外勢も多くて、この尖りまくった企画趣旨がどこまでちゃんと伝わっていたかがアレですが、そもそも90年代中期(日本語ラップ史的にはまだ黎明期から少し経った程度)にこれだけのメンツを集めてやり切ったこと自体が偉業という他ありません!
欲を言えば、”BLOW YOUR MIND”のオリジナル・バージョンはインストも欲しかったですが、REMIX盤のCDには未収録のオリジナル・バージョンを追加しているだけでも実は有難い仕様と言えますかね。

折角なので、ダウンタウンの弟分にして、一緒に「ダウンタウンのごっつええ感じ」を盛り上げた今田耕司のソロ音楽ユニット、KOJI 1200にも触れておきます。
明らかにGEISHA GIRLSの二番煎じという感じでテイ・トウワがプロデュース、レーベルもFOR LIFE RECORDSというほぼ同じ座組みのKOJI 1200のアルバム「アメリカ大好き!」には、ヤン富田(!)、立花ハジメ、野宮真貴(ピチカート・ファイヴ!)等、更にREMIX盤「アメリカ大リミックス!」にもBUFFALO DAUGHTER、F.P.M.(FANTASTIC PLASTIC MACHINE)、EL-MALO、K.U.D.O.、そして海外勢にはR&B畑から(なぜか)ALLSTARという、バラバラなジャンルの豪華リミキサー陣を招集していましたが、やっぱりGEISHA GIRLSと比べるとトーンダウンした印象は拭えない感じ。
ただ、TOFUBEATS(並びにリミキサーとしてPUNPEEにとっても!)の出世作として知られるクラシック”水星”で使用され、2010年代に入って鬼のような再評価が待っていた”BLOW YA MIND – I ♡ AMERICA”は日本語ラップ・リスナーにもお馴染みのはず。

KOJI 1200_THE 1200 INCH._表
KOJI 1200_THE 1200 INCH._裏

KOJI 1200「THE 1200 INCH.」
(FOR LIFE RECORDS/JPN 12″/FLJF-9512)

A-1 BLOW YA MIND – I ♡ AMERICA(ALBUM VERSION)
A-2 BLOW YA MIND – I ♡ AMERICA(ALLSTAR REMIX)
A-3 BLOW YA MIND – I ♡ AMERICA(VIVIAN VERSION)
B-1 NOW ROMANTIC(ALBUM EXTENDED VERSION)
B-2 NOW ROMANTIC(BUFFALO DAUGHTER REMIX)
B-3 MODERN NOW 80′(GRAPHICKERS EDIT)
B-4 NOW ROMANTIC(GOOD EVENING LOUNGE BOSSA)

いくらテイ・トウワがプロデュースしていたとは言え、元ネタとしては当時、一番黙殺されていた90年代ポップスの、それもKOJI 1200に目を付けたTOFUBEATSの彗眼には明らかなセンスの良さはもちろん、完全に次世代感があったのを覚えています。
「今田はナウ ロマンティック~♪」のフックで知られる”NOW ROMANTIC(ナウ ロマンティック)”がダンス方面にアプローチした一曲だとしたら、ALLSTARをリミキサーに迎えた”BLOW YA MIND – I ♡ AMERICA(ブロウ ヤ マインド)”は明らかにヒップホップ~R&B層を狙った作りだったわけで、更にGEISHA GIRLS”BLOW YOUR MIND”と同じCRASH CREW(DISCO DAVE & THE FORCE OF THE FIVE MCS)”HIGH POWER RAP”の声ネタ使い、タイトルもほぼ一緒というセルフ小判鮫スタイルがあざと過ぎて、むしろ潔し!
今ちゃんも、ちゃんとラップしてます!

もう一つ補足すると、今田耕司はKOJI 1200の前夜に、Wコウジの東野幸治とWEST ENDとして、EAST END×YURI”DA.YO.NE”の関西版パロディでWEST END×YUKI”SO.YA.NA”をリリース、ラップを披露しており、”BLOW YA MIND – I ♡ AMERICA(ブロウ ヤ マインド)”前にキッチリ布石はあった感じ。
ちなみに、YUKIこと武内由紀子はO.P.D.=大阪パフォーマンスドールのリーダーで、本家のYUKIこと東京パフォーマンスドール(T.P.D.)の市井由理と対と言える存在。
ラップもなかなかに聴かせる芸達者な人(関西では「大阪ほんわかテレビ」の出演でお馴染みのはず)でそれを買われてか、MC YUKIとしてGEISHA GIRLS”BLOW YOUR MIND”でもラップを披露していたりします。
同曲で、MC YUKIにイチャモンを付ける石野桜子(当時は吉本興業所属)は、脱線3″STRAIGHT OUTTA NGK”(とスチャダラパー”ジゴロ7″)の「そして私のファンになれ!」でお馴染みのアノ人ですね。

なお、関西版の”SO.YA.NA”他、NORTH END×AYUMIの北海道版”DA.BE.SA”、NORTH EAST×MAIの東北版”DA.CHA.NE”、CHUBU END×SATOMIの名古屋版”DA.GA.NE”、OYSTER END×YUKAの広島版”HO.JA.NE”、SOUTH END×YUKAの博多版”SO.TA.I”等のローカル・カヴァーが存在していますが、いずれも短冊/V.A.のCDのみでアナログ化は無し(V.A.「SPECIAL TRIBUTE TO DA.YO.NE.」には、中国/インドネシア版まで…!)。
今さら掘り返されたくはない過去でしょうけど、博多版のSOUTH ENDは鶴屋華丸こと現・華丸大吉と、プー&ムーのおたこぷーによるデュオだったりします。

最後になりましたが、冒頭のプラスマイナス 岩橋良昌の告発には(こちらは名指し/実名じゃないけど)今田耕司と思われる内容も含まれており、もしかすると芋づる式に「ごっつええ感じ」組にまで何らかの影響が出そうな雰囲気になってきたので、過去の作品を聴き返しながらこの先の動向を引き続き見守りたいと思います。

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