茂千代「NIWAKA」 – #np 2023.11.08

本日11月8日は、調べてみると茂千代の1STアルバム「NIWAKA」のリリース日で(2008/11/08) 。※CDのリリース日
茂千代と言えば、古くはKENT WILDと共にDESPERADOの片割れとして、全盛期のFUTURE SHOCKのディールを勝ち取った関西シーンのレジェンドの一人。
DESPERADOとして、OZROSAURUSと共に98年に「DOUBLE IMPACT EP 2」で華々しくデビューしたまでは良かったけど、後が続かずグループは解散、その後暫くはソロとしてMAGUMA MC’Sが牽引したGREEN FORCE CREWに在籍する等、ストリートに根差した地道な活動を経て、師匠筋のDJ KENSAWのバックアップでついにリリースとなったのが、2008年のソロデビュー作「NIWAKA」。
そのプロモーションがてら「NIWAKA」前に出回った、過去のソロ/客演仕事をSTERUSSのDJ KAZZ-Kによるベストミックス「茂千代MIX “THE BARREL~MIX TASTING”」の時点で古参ヘッズはすでに大泣きしていたわけですが、そんなバックグラウンドや、故に大きく膨らんだ期待値もしっかりと受けきってみせた名盤だと思います。
後の2NDアルバム「続NIWAKA」の方もDJ KENSAWとのタッグで作り切った作品ではありますが、タイトルからして「NIWAKA」の延長線上の一枚で、どうしても前作ありきの評価に落ち着いているような。
以降の、DJ SOOMAとの「新御堂筋夜想曲」、DJ MOTORAとの「REBIRTH」も確かに良作だけど、当時の興奮~贔屓目の思い出補正を差し引いたとしても、個人的にはやはり茂千代の代表作はDJ KENSAWがフルサポートした本作を推します。

茂千代_NIWAKA

茂千代「NIWAKA」
(S.T.A/JPN CD/STA-SN-01)

01 – O-CITY LIVE
02 – LONGEST TIME 1(SKIT)
03 – KEIKEN
04 – BRING DA NOISE
05 – WAR IN A MIND
06 – MIRACLE
07 – GET BUSY(GOLDEN YEAR)
08 – LA LA MEANS WALK THIS WAY(feat. BAKA DE GUESS?)
09 – 強い意志
10 – 汗とホコリにまみれ
11 – OFF
12 – EVERYTHING
13 – HEY YOUNG WORLD
14 – LONGEST TIME 2(SKIT)
15 – NEW BEGINNING
16 – CHANCE
17 – NIWAKA
18 – BIG BANG

「茂千代MIX “THE BARREL~MIX TASTING”」とは3曲のみ被り(“強い意志”/”汗とホコリにまみれ”/OFF”)があるものの、それらもミックスCD時点で初披露だった楽曲ばかり、基本的にほぼほぼ本作用に新たに書き下ろし、録音された楽曲で構成。
GREEN FORCE CREW時代の”0-START”(東雲RECORDS発のV.A.「RAP WARZ DONPACHI」収録)やDJ NAPEYに客演した”別れ唄”とか、キャリア長めのアクトの1STアルバムにありがちな、古くからの楽曲の再録バージョンやREMIX等は収録しなかった潔さも評価されるべきだと思います。

全曲レビュー

01 – “O-CITY LIVE”
DJ KENSAW作のビートに乗って、挨拶代わりに軽くキックする一曲目から茂千代節は全開。
自身がかつてフックアップされたDJ KENSAWの往年の名曲をリマインドするが如く、「OWL NITE」というフレーズから意図して押韻していくフックの言葉選びにニヤリとさせられるはず。

02 – “LONGEST TIME 1(SKIT)”
イントロからラップしたかと思えば、2曲目が実質的イントロという少し変則的な構成。
アルバム全体の構成やビート選びに関しては、御大DJ KENSAWのディレクションが強めに入っているものと思われますが、改めて確認してみるとリリース1ヶ月前のインフォ時点と曲順がけっこう違っており、当初はスキット無しの構成を予定していたようなので、この辺はギリギリまで揉んだ末に今の形に収まったのかな。

03 – “KEIKEN”
箸休め的な短編スキットを経て、徐々にエンジンを温めていくような”KEIKEN”は、またしても茂千代のラップはお休みでDJ KENSAW作のインスト。
タイトル通り、山口百恵”ひと夏の経験”の冒頭部分を遅回しで使用したビートは、2000年代そこそこから歌謡曲を積極的にネタ使いしていた御大らしい見事な選球眼だと思います。

04 – “BRING DA NOISE”
御存知、QUINCY JONES”IRONSIDE”の例の怪しげなサイレン音(?)を警報に見立てて、茂千代がサッカーMCスタイルで躍動。
古くはILLMARIACHI”YOUNGGUNNZ”、ソロ時代で言えばDJ SOOMAに客演した”喰うMC”辺りでの好演を彷彿とさせる、アグレッシブで前ノメリなラップスタイルが素直に格好良し。
ベタな大ネタ使いにイナタいタイトルも手伝って、あの頃の茂千代が戻ってきた、そんな雰囲気を盛り上げる一曲。

05 – “WAR IN A MIND”
続いて、勢いよく響き渡るホーンに乗ってまたまた攻撃的なラップを披露。
BPM早めのビートで捲し立てるようなスタイルは、どこかDJ KENSAWに客演した”P.E.R.F.E.C.T.”を彷彿とさせるような。
フック無しの駆け足で疾走するような2分強で、タイトな仕上がり。

06 – “MIRACLE”
タイトル通り、大ネタJACKSON SISTERS”I BELIEVE IN MIRACLES”をベタ敷きしたビートでキック、元ネタの一節を鼻歌気分でフックに持ってきた構成を含め、どこかフリースタイルっぽいラフなノリの一曲。
この辺りのイナタい大ネタ使い(と直球のタイトル)のラフな感じが、どうにも梟観光マナーと言うか、とても「らしい」仕上がりだと思います。
後に茂千代が毎月、12ヶ月連続で配信リリースした「FLAVOR OF THE MONTH」シリーズの”MIRACLE KID”(REMIX)をネタ使いは被ってますが、リリックは全く別物。

07 – “GET BUSY(GOLDEN YEAR)”
DJ A.Kに客演した2003年の”茂千代 GET BUSY”以降、リリックを変えて更新している(?)”GET BUSY”シリーズの一曲ですが、自身の名前を読み込んだフックが目印の”GET BUSY(GOLDEN YEAR)”が一番派手な作り。
随所で合いの手のように差し込まれるオールドスクールな声ネタも含め、”BRING DA NOISE”からの勢いを持続させるような一曲。
最後の最後にBLACK MACHINE”HOW GEE”(MACEO & THE MACKS”SOUL POWER ’74″と言った方がイイ?)が一瞬入ってきて、まるでDJミックスかのようにスムーズに次曲に雪崩れ込むのはニクい展開。

08 – “LA LA MEANS WALK THIS WAY”(feat. BAKA DE GUESS?)
同郷で、古くはDJ KENSAW”OWL NITE”時代からの付き合いとなる盟友、BAKA DE GUESS?を招集。
秘密結社(BAKA DE GUESS? & HEERO DA JOKER)に客演した”STANCE”もクラシックですが、何気にBAKA DE GUESS?単独との絡みは意外と他では無かったりもして、DJ KENSAW作のビートで実現した純オーサカジョイントになっています。
「ヒップホップが俺の生きる道、ずっとこのやり方で続けていく」と歌うフックよろしく、生涯ヒップホップでサバイブし続けると高らかに宣言する、愚直で真っ直ぐなリリックに胸を打たれる人も多いはず。
DELFONICS”LA LA MEANS I LOVE YOU”を拝借したタイトルからしてニヤリとさせられます。
本作のリリース前のストリートプロモーションで12″化もしていて、そちらにはタイトルに肖り、上ネタはそのままにビートだけRUN DMC”WALK THIS WAY”のそれに差し替えた”LA LA MEANS WALK THIS WAY”(DELICATE BROTHERS MIX)を収録。
ちなみに、このREMIXは未だにデジタル化されておらず、「NIWAKA」/「続NIWAKA」他、アルバムにもベストミックスの類にも未収録のままになっています。
また、BAKA DE GUESS?とのコンビには手応えがあったのか(?)、2NDアルバム「続NIWAKA」には続編となる”LA LA LA PT.2(TRIPLE TRAVEL)”を収録していました(タッグでのDELICATE BROTHERS名義)。

折角なので、この流れで12″も紹介しておきます。

茂千代_LALA MEANS WALK THIS WAY

茂千代”LA LA MEANS WALK THIS WAY”
(-/JPN 12″/SP00)

A-1 LA LA MEANS WALK THIS WAY(ALBUM)(feat. BAKA DE GUESS?)
A-2 LA LA MEANS WALK THIS WAY(INSTRUMENTAL)
A-3 LA LA MEANS WALK THIS WAY(ACAPELLA)
B-1 LA LA MEANS WALK THIS WAY(DELICATE BROTHERS MIX)(feat. BAKA DE GUESS?)
B-2 LA LA MEANS WALK THIS WAY(DELICATE BROTHERS MIX)(BREAK BEATS)

09 – “強い意志”
ここからの3曲は、先だっての「茂千代MIX “THE BARREL~MIX TASTING”」からの再録。
“強い意志”はバック・イン・ザ・ディもので、DESPERADO結成前の学生時代、ヒップホップとの出会いまで遡り、MAGUMA MC’S周辺と合流したGREEN FORCE CREW時代(「氷河期溶かした真っ赤なマグマ、緑の力にヤラれ切磋琢磨」)に、活動を休止していた頃まで含め過去を回想、アコースティックでブルージーなビートに乗って弾き語るようなラップを聴かせています。
そんな中、自身のキャリア最大のターニングポイントとなったDJ KENSAWとの出会いについても、「きっかけはいつもベイサイドジェニー、留まってん赤い目梟の目に」とサラリと振り返っているんですが、もしもその邂逅が無かったならDJ KENSAW”OWL NITE”も違った形になっていたのかと考えると、これもまた興味深いラインだと思います。

10 – “汗とホコリにまみれ”
続く”汗とホコリにまみれ”は、DJ A.Kが手掛けたGANG STARR”NOW YOU’RE MINE”バリのワンループに乗って、昼間の仕事で日銭を稼ぎながらラップ稼業を続ける所帯持ちラッパーの苦悩を包み隠さず歌った、言わばヒップホップ版”ヨイトマケの唄”。
シーンの成熟と共に、結婚して所帯を持ち別の仕事をしながらラッパーとしての活動を続けるアクトが増えてきて、小林勝行”丈夫軍手’Z”、KOCHITOLA HAGURETIC EMCEE’S”ラッパー君は大忙し”等、こういったテーマの楽曲は2000年代後半以降から増えてきた印象ですが、そんな中でも彼の”汗とホコリにまみれ”はクラシック。
ちなみに、ライブ盤の「NIWAKA THE LIVE」でも実質的1曲目に披露されていたんで、茂千代自身にとっても大切な一曲なのだろうと想像します。

11 – “OFF”
先だって「茂千代MIX “THE BARREL~MIX TASTING”」にも収録された”OFF”は、茂千代が休日モードで彼女との日常をユルリと歌うタイトル通りの一曲で、「君のメイクが終わるの待つ、車で聴くCDを選ぶ、俺は早く行こうやと急かす、鏡越し君は笑ってじらす」終始そんな調子。
日常の一幕を等身大のまま切り取った特段難しいラインではないけど、その辺りも含めて”OFF”ってことだと思うんで、”汗とホコリにまみれ”たオンの日との対比として次曲に配置されている構成にもニヤリとさせられます。
「茂千代MIX “THE BARREL~MIX TASTING”」ではミックスされてカットされたアウトロも美味。

12 – “EVERYTHING”
“OFF”から次曲の”HEY YOUNG WORLD”/”LONGEST TIME 2(SKIT)”までは落ち着いた流れで続くんですが、”EVERYTHING”は(恐らくは”OFF”の)彼女に向けられた渋めのラブソング。
坂本九”上を向いて歩こう”/TASTE OF HONEY”SUKIYAKI”のメロディーを拝借したフックは、タイトルからしてMARY J. BLIGEの同名曲からの着想なのは間違いないと思うんで、リリックの内容も含めて同曲へのアンサーソングと言った方がイイのかも。
まあ、こんな風に書いちゃうと茂千代の楽曲の中でもかなり異色に思えるんだけど、変にキャッチーな作りでもないんで自然な流れで聴けます。

13 – “HEY YOUNG WORLD”
SLICK RICKの同名クラシックを受けて、茂千代なりのアンサーソングとも言えそうな一曲。
原曲は若い世代に向けたエールだったけど、本作では自身の息子に、語りかけるように優しい調子でメッセージを投げかけているのが印象的。
DESPERADO時代から初期のソロ活動時には、どちらかと言えば攻撃的なリリックが目立っていた彼だけど、ここでのラップは明らかにそれまでとは違うコク深い味わい。
“汗とホコリにまみれ”と同じく、家庭を持ったからこそ歌える一曲だし、だからこそ同じ境遇のヘッズに響くのだと思います。
そんな優しいラップに、HAROLD MELVIN & THE BLUE NOTES”I MISS YOU”を使用した蕩けそうなメロウなビートがベストマッチ。
ネタ使いでは本国のJAY-Z & BEANIE SIGEL”THIS CAN’T BE LIFE”に一歩遅れたものの、フィリーソウルの香りをより強く滲ませて甘く仕上げているのは、本作の方。
間違いなく「NIWAKA」のハイライトの一つだと思います。

14 – “LONGEST TIME 2(SKIT)”
もうひと盛り上げを前にした最後のスキットですが、”LONGEST TIME 1″と同じビートに、こっちには前曲を受けてSLICK RICK”HEY YOUNG WORLD”の声ネタを乗せる演出にもニヤリ。

15 – “NEW BEGINNING”
短い箸休めを経て、本作を皮切りにまた本格的活動再開を宣言するような内容だけど、ラップの方は落ち着いていて、詩的な表現も多いのが印象的。
そんな中、自身とDJ KENSAWの関係性にサラリと言及する「ミスターKENSAWがスゴい音を発見した、ここに光があることは明らか、俺はハタチの頃編み出した押韻法を使い、ループとドラムパターンを理解しながら、何億通りある言葉の響きと意味に酔いしれながら向かうNEW BEGINNING」なんてラインにもグッときます。
タイトルよろしく、ちあきなおみ”黄昏のビギン”を使用したDJ KENSAW作のスゴい音=ビートは、昭和歌謡好きなら思わず「雨に濡れてた~♪」と歌い出しかねないほどイントロ部分を巧く使い切っていて、改めて御大の選球眼に唸らされるはず。
DJ KENSAWの歌謡曲使いにハズレ無し!
同時期にリリースされた、ULTRA-VYBE産の日本語ラップV.A.「ILL STREET BLUES」にも選出されていました。

16 – “CHANCE”
前曲のアウトロから繋がって入ってくる”CHANCE”は、”NEW BEGINNING”と”HEY YOUNG WORLD”のちょうど間ぐらいのポジティブなメッセージが胸を打つ一曲。
「チャンス、振り向くなIT’S YOURS、もう目の前、もう手の中、踊らずにいられない未来、眠るのはまだ先」と繰り返すフックも、いつの間にか耳に残ってる感じが巧い。
MC SHAN”THE BRIDGE”やSTETSASONIC”GO STETSA I”の声ネタ、明らかにT LA ROCK & JAZZY JAY”IT’S YOURS”(もしくはNAS”THE WORLD IS YOURS”)を踏まえた引用に茂千代のヒップホップ愛を感じます。
ただ、アウトロのフェードアウトが少し不自然な気がするのは自分だけ…?
ちなみに、本テイクはREMIXという扱いなのか(?)、その後にYOUTUBEでデモっぽい短尺のオリジナル・バージョンが公開されていて、そっちとはビートが異なっています。

17 – “NIWAKA”
前曲が急にフェードアウトしたかと思ったら、大ネタBOB JAMES”NAUTILUS”をベタ敷きしたビートに乗ってラフにキックするタイトル曲”NIWAKA”は、2分弱をフック無しで走り切る作りも含め、なんとなくフリースタイルっぽい一曲。
余談ですが、この”NIWAKA”ビートは後に茂千代が毎月、12ヶ月連続で配信リリースした「FLAVOR OF THE MONTH」シリーズのYOUTUBE動画の冒頭のジングル的に使われてもいたんで、やっぱりフリースタイルだったっぽいと予想。

18 – “BIG BANG”
“NEW BEGINNING”や”CHANCE”辺りにも通じる、次のステップに向かうようなポジティブなメッセージを託した”BIG BANG”で締め。
フック前にサラリと読み込んだ「JUST BEGUN, 鳴らすBIG BIG BANG」の一節は、次作「続NIWAKA」の”TWO TO YA HEAD”の冒頭でリサイクルしていたりもして、本編のラストかつ続編へのブリッジと捉えれば完璧な構成かも。
3分強の後、暫しのブランクを置いて始まるシークレットトラックの”GET HIGH”は、いかにもDJ KENSAWらしいドス黒いビートに乗ってラフにキック。
“BIG BANG”で締めても十分なのに、最後の最後に追撃でこういう仕掛けを忍ばせてくる辺りにオーサカアンダーグラウンドのイズムを感じます。

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