スチャダラパー「5TH WHEEL 2 THE COACH」 – #np 2024.04.26

本日4月26日は、調べてみるとスチャダラパーの5THアルバム「5TH WHEEL 2 THE COACH」のリリース日で(1995/04/26)。※CDのリリース日
つい数日前にリリース30周年を記念して、”今夜はブギー・バック”の正式な続編”ぶぎ・ばく・べいびー”がリリースされたばかり、「今年のスチャダラは絶対にアツい!」という個人的確信を持って、いまなおクラシックとの評価が高い名盤をリマインドします。

スチャダラパー_5TH WHEEL 2 THE COACH_表
スチャダラパー_5TH WHEEL 2 THE COACH_裏

スチャダラパー「5TH WHEEL 2 THE COACH」
(TOSHIBA EMI/JPN 2LP/TOJT-8998-99)

A-1 AM0:00
A-2 B-BOYブンガク
A-3 ノーベルやんちゃDE賞
B-1 南極物語
B-2 5TH WHEEL 2 THE COACH(feat. ナオヒロック)
B-3 サマージャム ’95
C-1 ジゴロ7
C-2 ドゥビドゥWHAT?
C-3 THE LATE SHOW
D-1 FROM喜怒哀楽
D-2 ULTIMATE BREAKFAST & BEATS
D-3 AM8:30
D-4 NOVEL NAUGHTY BEATS

日本語ラップの名盤語り本「サイプレス上野のLEGENDオブ日本語ラップ伝説」で、サイプレス上野と東京ブロンクスが、スチャダラパーのキャリアにおいて最も「B-BOY度数が高い」と言わしめた一枚としてもお馴染みのはず。
2020年にリメイクされた”サマージャム 2020″の原曲、”サマージャム ’95″を収録したオリジナルアルバムで、そのイメージに引っ張られてどこか夏っぽい印象があるけど、本編のリリースは春なんすよね。

スチャダラパー_5TH WHEEL 2 THE COACH_中ジャケ

独特な世界観でシュールな中ジャケも良き。

全曲レビュー

A-1 “AM0:00”
本編に誘うイントロは、GROVER WASHINGTON JR.”EASY LIVING-AIN’T NOBODY’S BUSINESS IF I DO”を使用したインスト。
深夜0:00をイメージしたであろう、どこか怪しくも艶っぽさのあるループは、10分近い長編の原曲の終わりかけの一瞬のフレーズを掴まえたもので、原曲と併せて聴くことで改めてDJ SHINCOのセンスと耳の良さを再確認できるような。

A-2 “B-BOYブンガク”
実質的な一曲目は、彼等なりのBボーイ道を説いた”B-BOYブンガク”!
L.T.D.”TO THE BONE”を使用したビートで、(名指しこそしないものの)「色眼鏡の詐欺師」として当時、ピザのCMに出演していたバブルガム・ブラザーズのBRO.KORNを明らかにディスっていたりして、冒頭からして前年のEP「スチャダラ外伝」の”GET UP AND DANCE”で子供達と歌っていたのがウソみたいなシリアスムード。
MAJOR FORCE時代から提唱してきた「オモロラップ」とは対極にあるような、ハードな作りにヤラれて一気に彼等を見直したヘッズも多かったはず…。
また、アルバム全体で考えれば、逆に”B-BOYブンガク”だけが目立ってハードコアなんで、それを実質的一曲目という掴みに持ってきているのは当然敢えて、のはず。
ちなみに、イントロやフックで執拗に擦られるのはもちろん、J.V.C. FORCE”STRONG ISLAND”の「WE ALL KNOW HOW THE STORY GOES」のフレーズ。

A-3 “ノーベルやんちゃDE賞”
ハードな前曲から一転、”ノーベルやんちゃDE賞”はラップこそオモロ~おふざけ路線ですが、ビートはEMOTIONS”BLIND ALLEY”を使用した至ってシンプルでストイックなもの。
本編全体に言える話だけど、「5TH WHEEL 2 THE COACH」以降、スチャダラパー作品は低音がしっかり出てて太いのと、鳴りも良いから、ラップが多少ふざけていてもビートと合わせると軽く聴こえない、っていうのはあると思います(CD帯でも謳っている通り、サウンド面ではE-MUの名機SP1200の導入が大きかったはず…)。

B-1 “南極物語”
続いて、またまたオモロな路線なんだけど、1ヴァース目から「バイトに行きたくない」と腐るANIパートと、諭すようにラップするBOSEパートはさながら内なる天使と悪魔の掛け合いで、ヴァースの締めを「結局、南極~」と結ぶ構成にニヤリ!
“ついてる男”とか”後者(THE LATTER)”も然り、キャリア中期以降にANIもしっかりヴァースを蹴るようになってから暫くはBOSEとANI、それぞれに明確なキャラ付けがある楽曲も多かったけど、”南極物語”もそんな一曲。
定番ブレイク、JAMES BROWN”FUNKY PRESIDENT”使いもやっぱり鳴り良し。

B-2 “5TH WHEEL 2 THE COACH”(feat. ナオヒロック)
BLACK HEAT”NO TIME TO BORN”のザックリとループの上で、目が覚めるようなナオヒロックのハイテンションなラップで幕を開けるイントロから、EARTH, WIND & FIRE”THIS WORLD TODAY”を使用したビートに展開する二部構成がニクい!
このナオヒロックのリリーフ的起用は、後にサイプレス上野とロベルト吉野”ナオヒロック ON THE MIC”でも(ニュアンスとして)オマージュされてる感があって、アンカットながらも後世に影響を与えた一曲と言えるかも。
言うまでもなくアルバムのタイトル曲で、文字通り「4輪馬車に5番目の車輪」で蛇足の意味なんで、余談と言うか、テーマが有るようで無いフリースタイルっぽい内容なんだけども、そんなにイイこと言ってるわけじゃないのに(失礼)やたらハードに聴こえるのは、やっぱりビートの鳴りのせいかと。

B-3 “サマージャム ’95”
永遠の夏クラシック!
BOBBY HUTCHERSON”MONTARA”をメインに使用した涼しげなビートに乗ってくる、まるで学生時代の夏のヨタ話みたいなBOSEとANIの掛け合いが最高にレイドバックしてて、MOMENTS”LOVELY WAY SHE LOVES”を使用したアウトロまで聴き逃せない一曲。
一枚まるごと、どこか夏っぽい印象がある「5TH WHEEL 3 THE COACH」だけど(でも、よく見るとジャケは長袖ですね…)、全ては”サマージャム ’95″のせい、かと。
何気に、”クラッカーMC’S”の「誰のせい?それはアレだ、夏のせい」をフックで使用してるのもニクい!
当時、短冊CDでもシングル化(12″はプロモのみ!)してて、そっちにはクボタタケシとDIAMOND D(!)によるREMIXが収録され、CAPTAIN BEEFHEART & HIS MAGIC BAND”OBSERVATORY CREST”を使用した前者も人気。
また、後に”初夏ージャム”(?)としてライブ盤の「よりぬきスチャダラ全力投球!」に生バンドでのライブテイクが収録されていたり、原曲のアウトロから始まる構成からして粋な続編”サマージャム2020″もリリースされる等、結果的に数ある彼等の楽曲の中でもとりわけバリエーションが多い一曲となっているのも、原曲の根強い人気ゆえ。

C-1 “ジゴロ7”
前曲のアウトロでチルしてた矢先、「COME ON, LET’S GIGOLO(GIGOLO, GIGOLO)~♪」と軽快に歌うKRYPTIC KREW”JAZZY SENSATION”(MANHATTAN VERSION)の声ネタをフックに据えたジゴロ賛歌”ジゴロ7″に雪崩れ込む展開がスリリング!
LB NATIONが誇る(?)7人のジゴロ達、BOSE(ボー様)、KING 3LDK(サンペー)、ロボ宙(ロボ郎)、SHINCO(シンの字)、TAKEI GOODMAN(ヨシヒト)、ANI(ニーヤン)、MC BOO(ブッダさん)が一堂に集結したポッセカットで、彼等の”GET UP AND DANCE”/”LITTLE BIRD STRUT”/”CARS-JOINT”、脱線3″笑ってる場合ですよ”辺りと並ぶLB NATION揃い踏み曲!
ちなみに、ニーヤンことANIがヴァースで引用してる「CLAP YOUR HANDS & DO THE GIGOLO( GIGOLO)!」のフレーズはAFRIKA BAMBAATAA & THE JAZZY 5”JAZZY SENSATION”(BRONX VERSION)の方なんで、”JAZZY SENSATION”の12″を何気に律儀に(?)両面引用してるのもニクい!

C-2 “ドゥビドゥWHAT?”
COASTERS”BRAZIL”のコーラスに、SILVERS”WHAT’S IT ALL ABOUT”を使用したホゲたビートに、ANIメインでBOSEとの掛け合いラップが楽しい一曲。
この時期の彼等の作品は、少し前から”0718アニソロ”とか”アニFEVER”で、ANIのラップを立てた一曲をアルバムに一曲入れる(か入れないか)ぐらいの感じでやってたけど、「5TH WHEEL 2 THE COACH」においてはコレがそんなニュアンスか。
そんなANIの1ヴァース目ではPUBLIC ENEMY”PUBLIC ENEMY #1″の例のシャウトを引用してる箇所があったり、”ジゴロ7″よろしくで何気にヒップホップ指数の高さを聴かせてます。
ちなみに、中盤に転調して擦られるのは、MC LYTE”LYTE AS A ROCK”の「DO YOU UNDERSTAND?」の一節。

C-3 “THE LATE SHOW”
突如、BOSEから投げかけられる「一体、一日に何人の人が遅刻していると思いますか?」のナレーション的な問いかけから始まるストーリーテリングもの。
この導入部分はSLICK RICK”CHILDREN’S STORY”的なニュアンスだけど、少年の悲惨なストーリーを歌ったシリアスな原曲とは違って、ここで語られるのはBOSEとANIが演じる2つの遅刻(の壮大な言い訳)で、フックにハメたMARY JANE GIRLS”ALL NIGHT LONG”の「HARRY UP AND COME」の声ネタと、ラストのANIヴァースの締め「でも、遅刻は遅刻だぞ」でしっかりオチを作った構成も良き。
ちなみに、冒頭から挿入され続ける(野太い)「HARRY UP, HARRY UP」の声ネタは、LEADERS OF THE NEW SCHOOL”INTERNATIONAL ZONE COASTER”の後半に出てくる合いの手で、ビートはDEXTER WANSEL”LIFE ON MARS”を使用しています。

D-1 “FROM喜怒哀楽”
“FROM喜怒哀楽”のタイトル通り、喜怒哀楽の4つのテーマを紡いだ構成からして良き。
EDDIE KENDRICKS”CAN I”(フックはTIMMY THOMAS”COLD COLD PEOPLE”)を使用した、まったりめのビートでファンを持ち上げる(?)「喜」、逆にファンに苦言を呈す「怒」の前半2ヴァースが対になってて、ストーリテリングの「哀」を挟んで、テーマ縛りを解いたみたいにいつものスチャダラ節の「楽」で締めるんだけど、やっぱりいつも聞き耳を立ててしまうのは3ヴァース目の「哀」。
「あの頃の夏」のワンシーンを切り取った短編の物語だけど、明言はされないものの”サマージャム ’95″の「つるんでた彼」にも思えるし、「PEの1STが出た年ってことは87年からの付き合い」というラインから深読みすれば、実際にBOSEとANIが出会ったぐらいの時期だから、25才までにモノにならなかった彼等のアナザーストーリーとも勘ぐれるわけで(普通に、学生時代の仲が良かった別の友達の話かもしれないけど)、1ヴァースで短いながらも深い悲(哀)しい話だったりします。
ちなみに、ライブ盤の「よりぬきスチャダラ全力投球!」での生バンドでのライブテイクでは、引っ越す理由が「親との約束」じゃなくて「原発の再稼働」にリリックを変更してて、”かえせ!地球を2011″以降の彼等の強い主張を再確認した気がしました。

D-2 “ULTIMATE BREAKFAST & BEATS”
金字塔的V.A.「ULTIMATE BREAK & BEATS」シリーズにも収録されてる定番ブレイク、MELVIN BLISS”SYNTHETIC SUBSTITUTION”の後半部分に目を付けた選球眼で勝負有り!
クラブ帰りをイメージしたような軽いテーマでアウトロ”AM8:30″へ自然に繋がっていく感じが、アルバム全体の構成としても満点。
12″はタイトルよろしく、V.A.「ULTIMATE BREAK & BEATS」シリーズの5番(紫で、FREEDOM”GET UP AND DANCE”も収録)を引用したデザインで痛快でした!

D-3 “AM8:30”
締めはイントロの”AM0:00″と同じく、GROVER WASHINGTON JR.”EASY LIVING-AIN’T NOBODY’S BUSINESS IF I DO”を使用したインストで、こっちはドラム無し。
一周して戻る感じ、イントロ/アウトロ(スキット)も含めたアルバム作りっていうのが、そもそもすごく90年代っぽいと言うか、配信全盛の今とは感覚が違うと思うんですが、フィジカルでパッケージする作品だと考えると、そういう細かい部分も含めた拘りが感じられる方が店主は好みですね。

D-4 “NOVEL NAUGHTY BEATS”
アウトロ後に収録されたLPのみのオマケ的一曲は、”FROM喜怒哀楽”の短冊CDのB面だった”NOVEL NAUGHTY BEATS”(同曲のプロモ12″にも収録)!
“ノーベルやんちゃDE賞”のインストと言うか、声ネタだけ乗せたボーナスビートって感じなんで、使ってる声ネタ的にも恐らくはトラックスをイメージしたであろう一曲。
もちろん、原曲と同様にEMOTIONS”BLIND ALLEY”を使用しています。

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