EAST END + YURI”DA.YO.NE” – VINYL DEALER的日本語ラップ追究【30】

追究 … 未知のものや不明の事柄を調べて明らかにしようとすること

今年2024年は、ヒップホップの黄金期と評される94年からちょうど30年の節目ということで、秋にNASの来日ライブ、「ILLMATIC」が30周年7″ボックスセット(6枚組!)がリリースされたり、NOTORIOUS B.I.G.「READY TO DIE」がTIMBERLANDのブーツとコラボする等、90年代リバイバル真っ只中。
日本語ラップにおいても、小沢健二とスチャダラパーによるクラシック”今夜はブギー・バック”から30年を記念して再ジョイント曲”ぶぎ・ばく・べいびー”、原曲のLUVRAWによるREMIXの7″もリリースされ、さらには”今夜はブギー・バック”を収録した小沢健二の2NDアルバム「LIFE」もリマスタリングされて、オリジナルのCDリリースからちょうど30年越しで、ついにLP再発されたのも記憶に新しいところ。

というわけで、94年産クラシック人気が再熱してるけど、一曲忘れちゃあいませんか?というのが本記事の趣旨。
そう、タイトル通り…EAST END + YURI”DA.YO.NE”!

言うまでもなく94年リリースで、”今夜はブギー・バック”と共に日本のお茶の間にラップというアートフォームを定着させた説明不要のクラシック。
ですが、”今夜はブギー・バック”と比べると確実に軽視されてるし、故に改めて振り返られる機会も少ない気がしてて。

まあ、EAST ENDそのものが2012年に活動休止していることも無関係ではないだろうし、彼等はRHYMESTERやRIP SLYME、KICK THE CAN CREW等と共にFUNKY GRAMMAR UNITとしても活動(?)していたり、GAKU-MC、ROCK-TEE、YOGGYのEAST ENDとして日本語ラップ黎明期のV.A.「BEST OF JAPANESE HIPHOP」シリーズにも楽曲提供する等、活動歴も長い本格派だったけど、東京パフォーマンスドール(TPD)のYURIこと市井由理と組んだのはさすがにマスアピールが過ぎて、当時からヘッズにはセルアウトと揶揄されたので分からんではないですが。
ちなみに、結成は当時のFILE RECORDS社長、元シャネルズ~ラッツ&スターのバス担当、佐藤義雄の鶴の一声だったそうな…!
ただ、その亜流の加藤茶”RAP MIYO-CHAN”はもちろん、ラップ歌謡もイケる店主からすると普通に直球の範疇なんで、30周年を機に掘り下げていきます。

EAST END+YURI_DENIMED-SOUL_表
EAST END+YURI_DENIMED-SOUL_裏

EAST END + YURI”DA.YO.NE”
(EPIC/SONY/12″/19FR-033)

A-1 GROOVIN’
A-2 BOOTS
A-3 SUNAONI(BACKING TRACK)
B-1 SUNAONI
B-2 DA.YO.NE(LONG VERSION)
B-3 DA.YO.NE(BACKING TRACK)

地味に当時、単独の12″はプロモすら存在しておらず、2015年にメンバーのROCK-TEE仕切りでエディットされて初7″化した経緯があり。
なので、写真は95年リリースの4曲入りEP「DENIMED-SOUL」で、メインの”DA.YO.NE”はロング・バージョンでインスト付きで収録(7″にはインストは未収録)。
94年のリリース当時、短冊CDシングル”DA.YO.NE”のスタートダッシュは不発で、翌年95年に北海道からジンワリと人気が南下してきたのは有名かも。
売上目標は当初1万枚だったといわれていますが、それが日本語ラップ界隈では初のミリオン、目標の100倍にもなる100万枚のメガセールスを叩き出したという事実。
同年の”今夜はブギー・バック”がセールスでは50万枚強だったみたいなんで、当時の”DA.YO.NE”バブルの大騒ぎっ振りは想像できようかと。

内容の方は言うまでもなく、全ての文末を「だよね」でまとめて韻代わりに仕立てたアプローチが、とてもラップ歌謡的な解釈なんで、ヘッズにセルアウトと言われる要因でもあるわけだけど、日本語特有のニュアンスで遊んでるって意味ではとても日本語ラップ的だし、高度な試みでもあるわけで(個人的には、ダウンタウンの漫才のネタで、GEISHA GIRLSでも楽曲化した”「あ」研究家”とも通じる気がしてる)。
リリックはGAKU-MCと、RHYMESTERのMUMMY-Dが共作でクレジットされてるのは有名だけど、YOGGYが手掛けたGEORGE BENSON”TURN YOUR LOVE AROUND”を使用したビートもキャッチーなラップと相性良し。
もちろん、94年にリリースされた短冊CDもご紹介します。

EAST END+YURI_DA.YO.NE_CD_表
EAST END+YURI_DA.YO.NE_CD_裏

EAST END + YURI”DA.YO.NE”
(EPIC/SONY/JPN CDS/ESDB 3519)

01 – DA.YO.NE
02 – 素直に
03 – 素直に(VERSION FOR BOYS)

余談ですが、当初は(ここまでのヒットになるとは想像してなかったからだろうけど)無許可でサンプリングしてた原曲の作曲者、BILL CHAMPLINがちょうどタイミング悪く来日しててバレちゃってFILE RECORDSへ異議を申し立てた件は最高にヒップホップ的な逸話だと思うんだけど、いまいち広まってないような(その後、訴訟前にしっぽりと使用料を払って和解)。
アメリカでは、かのBIZ MARKIEのサンプリング訴訟(“ALONE AGAIN”!)が91年だから、訴訟にはなってなくても日本でも4年遅れの95年にニアミスが起こっていたという事実は覚えておきたいところ。

脱線したけど、この”DA.YO.NE”のメガヒットを受け、GEISHA GIRLSで音楽市場にも本格参入し始めてた吉本興業のアクションは面白かった!
地方のローカル芸人/タレントと組んで、”DA.YO.NE”のローカル・バージョンを立て続けにリリースするという前代未聞の試みを発動しました。

WEST END+YUKI_SO.YA.NA_CD_表
WEST END+YUKI_SO.YA.NA_CD_裏

WEST END + YUKI”SO.YA.NA”
(EPIC/SONY/JPN CDS/ESDB 3553)

01 – SO.YA.NA
02 – SO.YA.NA(BACKING TRACK)

WEST ENDはもちろん(?)、今田耕司と東野幸治の「ごっつええ感じ」組のWコージで、大阪パフォーマンスドール(OPD)のYUKIと、まずは関西弁の”SO.YA.NA”!
ぶっちゃけ、ダウンタウンの次に(コンビではないけど)Wコージを売り出したくて、とりあえずやらせてみた感しかないけど。
コレがウケたことで各地方に派生したのか、そもそも各地方の構想があって一発目が関西版だったのかは定かではないんですが、YUKIの方もGEISHA GIRLS作品に参加してたり器用な人だったんで「ごっつええ感じ」人気も後押しして、まずまずの小判鮫ヒットになって勢い付いた感じ。
まあ、まともにラップしてるのはYUKIの方で、Wコージはしゃべってるだけなんでラップ歌謡としてのクオリティーはさておき、という話ですが。
ちなみに、短冊CDシングルのジャケが本家”DA.YO.NE”を大々的にアレンジしたものになっているのはコレだけで、こちらの裏ジャケが以降続くローカル版のベースデザインになっています。
このWEST ENDの活動が後の今田耕司のKOJI1200に繋がっていくことを考えると、この小判鮫ヒットが無ければ”ブロウ ユア マインド”が生まれず、TOFUBEATS”水星”が生まれてないわけで、ここから始まってる日本語ラップ史が潰えてしまう部分もあるという意味では何気に重要かも…!

NORTH END+AYUMI_DA.BE.SA_CD_表
NORTH END+AYUMI_DA.BE.SA_CD_裏

NORTH END + AYUMI”DA.BE.SA”
(EPIC/SONY/JPN CDS/ESDB 3562)

01 – DA.BE.SA
02 – DA.BE.SA(BACKING TRACK)

恐らくだけど、本家”DA.YO.NE”のミリオンヒットの経緯を考えると、”SO.YA.NA”がヒットしようがしまいが北海道の道産子バージョン”DA.BE.SA”だけはリリースしていたんじゃないかと想像したりします。
NORTH ENDは、後に北海道産のヒット番組「水曜どうでしょう」にも出演した鈴井貴之と、彼が主宰した劇団OOPARTSの団員、伝野隆介のデュオで、AYUMIが当時すでに彼の妻だった鈴井亜由美(現在は離婚)という布陣。
いくら道産子バージョンとは言え、酪農話や「北の国から」ネタはさすがにステレオタイプにデフォルメし過ぎな気がするけど、何気にリリックにはバブルガム・ブラザーズのBRO. TOMが関わっていたりもして侮れません!
他バージョンに比べて、明らかに本作の♀パートだけ艶感がくすんで聞こえるのは店主だけ…?

NORTH EAST+MAI_DA.CHA.NE_CD_表
NORTH EAST+MAI_DA.CHA.NE_CD_裏

NORTH EAST + MAI”DA.CHA.NE”
(EPIC/SONY/JPN CDS/ESDB 3563)

01 – DA.CHA.NE
02 – DA.CHA.NE(BACKING TRACK)

続いては、仙台発の東北弁バージョン”DA.CHA.NE”!
NORTH EASTは岩手めんこいテレビのいちアナウンサーだった横山義則と、青森県出身の高橋(誰?)のデュオで、2枚目にして早々に急造の間に合わせ感しかない顔合わせ…。
MAIは、こちらも当時、岩手めんこいテレビの女子アナで熊谷麻衣子ですが、現在はサンドイッチマンの伊達みきおの妻としても知られる方。
今となってはご本人達には黒歴史かもしれませんが、MAIのラップがなかなかどうしてハマッてて意外と良き…!

CHUBU END+SATOMI_DA.GA.NE_CD_表
CHUBU END+SATOMI_DA.GA.NE_CD_裏

CHUBU END + SATOMI”DA.GA.NE”
(EPIC/SONY/JPN CDS/ESDB 3564)

01 – DA.GA.NE
02 – DA.GA.NE(BACKING TRACK)

ようやく中部エリアに到達、名古屋弁バージョンの”DA.GA.NE”!
後に、TOKONA-Xが名古屋弁ラップを全国区で知らしめたことを考えると、(結果的に)そこは”DA.GA.YA”の方が良かった(?)気がしてならないんですが、SATOMIメインの女性言葉と考えると”DA.GA.NE”で落ち着いたということか…。
CHUBU ENDとSATOMIは、鉄崎幹人と戸井康成、原田さとみの3人で、90年代に中部エリアで放送していた情報番組「ミックスパイください」の出演メンバー。
何気に”SO.YA.NA”を除く、他5エリアのローカル版の中では最も売れたのが本作だったりします。

OYSTER END+YUKA_HO.JA.NE_CD_表
OYSTER END+YUKA_HO.JA.NE_CD_裏

OYSTER END + YUKA”HO.JA.NE”
(EPIC/SONY/JPN CDS/ESDB 3565)

01 – HO.JA.NE
02 – HO.JA.NE(BACKING TRACK)

続いて、西日本エリアからは広島弁バージョンの”HO.NA.NE”!
ここでいよいよ(?)ネタ切れと言うか、男役が1人(!)になり、現地のクラブDJだったという中村道生がソロでOYSTER ENDを襲名、YUKAはもう現地のラジオ番組の学生スタッフ(バイト?)だったそうで謎の人…。
が、OYSTER ENDの抑揚が効いたラップが意外と巧いのと、YUKAパートの素人臭さが逆にクセになるような、ならんような…?
裏ジャケが表ジャケの写真とポーズもカットもほぼ同じ(!)で、ここまで来るとやや水増し、中弛み感が目立ってきました…。

SOUTH END+YUKA_SO.TA.I_CD_表
SOUTH END+YUKA_SO.TA.I_CD_裏

SOUTH END + YUKA”SO.TA.I”
(EPIC/SONY/JPN CDS/ESDB 3566)

01 – SO.TA.I
02 – SO.TA.I(BACKING TRACK)

大トリはシリーズ最南端、福岡の博多弁バージョンの”SO.TA.I”!
SOUTH ENDは現・華丸大吉の博多華丸こと鶴屋華丸と、プー&ムーのおたこぷー(当時はおタコ・プー)、そしてYUKAはなんと現在は女優として第一線で活躍する板谷由夏(ジャケで服や髪型が近く、表記も同じですが”HO.JA.NE”のYUKAとはもちろん別人)!
若さ故に前ノメリで勢いある華丸パート、すでに女優としての大器の片鱗を感じさせる器用なYUKAパートと共に、逆に今こそ聴き返したい好曲かと。
板谷由夏は、この4年後に女優デビューするそうですが、この時点ですでにもう芸達者!

サ上と中江_SO.RE.NA

サ上と中江”SO.RE.NA”
(AVEX/JPN 7”/JS7S107)

A-1 SO.RE.NA
B-1 SO.RE.NA(SWG REMIX)

そして94年から20年強、サイプレス上野ことサ上と中江こと、AVEX所属のアイドルグループ、東京女子流の中江友梨のユニット、サ上と中江による”SO.RE.NA”!
原曲の同意を示す「だよね(DA.YO.NE)」を、2010年代に定着した同義の話し言葉「それな(SO.RE.NA)」に、相棒も東京パフォーマンスドールのYURIを現代のアイドルの中江に置き換えた、2010年代に正しくアップデートを施した20年越しの続編的アンサーソング。
サ上と中江の喰い合わせは、当然ヒップホップなバラエティー番組「サイプレス上野と中江友梨の青春日記」から派生した企画モノではありますが、アイドルと組んで”DA.YO.NE”に現代版でアンサーするサ上の日本語ラップIQの高さにヤラれます…。
また、7″には裏にスチャダラパーのSHINCO手掛ける”SO.RE.NA”(SWG REMIX)が収録されているのも要注意!
ちなみにジャケは、言うまでもなくGANG STARRの1STアルバム「NO MORE MR. NICE GUY」をパロッたものになっています。

GANG STARR_NO MORE MR. NICE GUY

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