X上で興味深いやりとりを見掛けたので、店主が思うところも残しておきたくなって、つい。
「JAZZY HIPHOP」なるカテゴライズは2000年前後、やっぱりHYDE OUT PRODUCTIONSの人気と共に広がって定着した、という理解で概ね問題ないかと。
HYDE OUTは当時まだ渋谷・宇田川町に存在してたGUINNESS RECORDS(2010年6月末に閉店)のオーナーだった故・瀬葉淳 = NUJABES(SEBAJUNの逆さ読み)のレーベルで、国内ではGUINNESS RECORDSがディストリビュートしてて。
レコードはUSプレスでシュリンクまで付いてたし、最初は国内盤の扱いだった気がするけど、人気が出てきてからはUSでも流通してたから、元々そういう構想だったんでしょうかね。
同レーベルのカタログでは、正直SHING02との”LUV(SIC)”シリーズの人気が圧倒的過ぎて他が霞んでしまうんですが、FUNKY DLとかAPANI B(APANI B-FLY EMCEE)、あとはFIVE DEEZ(と、そのリードMCのPASE ROCK)辺りは日本以外でもそれまでに活動実績のあったアーティストですが、NUJABESがフックアップした格好のソロマイカー、SUBSTANTIALとか、M-FLOのVERBALの変名、L-UNIVERSE(いつ本人が認知したか分からないですが、現在では周知の事実?当初は正体を伏せてた気がする)なんかは生まれも育ちもHYDE OUTって感じで、客演を含め完全にそこでしかリリースしないアーティストが紛れてる感じが不思議っちゃあ不思議なレーベルではあったかもですね、当時から。
2000年前後のUSメジャーは、BAD BOYに代表される大ネタ連発のサウンドから、RUFF RYDERS一派に代表される非サンプリングのSWIZZ BEATSみたいなサウンドにトレンドがちょうどシフトしてた時期。
振り戻しで、DILATED PEOPLESとかJURASSIC-5、PEOPLE UNDER THE STAIRS(P.U.T.S.)、UGLY DUCKLINGとか、(G-RAP/Gファンクではないという意味で)西海岸地下勢からのカウンターもじんわりあったけど、コレは今で言うところのDJ PREMIERとかPETE ROCK辺りに近い、いわゆるブーンバップなサウンドだったから、(大きな括りとして作りは同じなんだけど)「JAZZY HIPHOP」とは呼ばれておらず。
出自がアンダーグラウンドなのは同じだけど、HYDE OUT起点のそれとは明らかに別物とされていた気がして。
少し話が逸れてしまったんですが、「JAZZY HIPHOP」は読んで字の如く、ジャズをネタにしてるものが多いのは間違いないんですが、必ずしもそうではなく。
例えば、NUJABESの代表曲の”LUV(SIC)”シリーズだと、まあまあ執拗にIVAN LINS曲をネタにしてるけど、それってジャズ畑っちゃあジャズ畑かもしれないけど、ブラジルとかラテン、ボサノバのイメージの方が強い気がするし。
全体的にジャズをネタにしてるサウンドが多かったのはそうだけど、どちらかと言えば、落ち着いた耳当たりが良いサウンドを(雑に)便宜上の理由で一括りにして「JAZZY HIPHOP」とカテゴライズされてた気がするんで、今で言えばやっぱり「LO-FI HIPHOP」が一番近いと思う。
「LO-FI HIPHOP」が市民権を得た背景には、(否が応にも外出できない状況を作り出したコロナウイルスの流行も無視できないと思ってるけど)作業用BGMとしての側面も強いから、インストがムーブメントの中心で、ラップでのメッセージ云々ではなく、ただただ心地良さを追求してるという意味でダウンテンポとかダウンビートみたいなカテゴリー(?)と近いかと。
なので、「LO-FI HIPHOP」とブーンバップのちょうど真ん中辺りを、いわゆる「JAZZY HIPHOP」と定義すると、個人的にはしっくりきます。
実際、「JAZZY HIPHOP」を当時どんな層が好んで聴いていたのかと振り返ると、(今で言う)ブーンバップ好きだったかと言われるとそこはそう多くはなくて(もちろん居ないわけではない)、ライトユーザー層とかカフェのBGMの需要なんかも多かったかと。
故に、バリバリのヒップホップヘッズから低く見積もられてたのは多分事実で、軟派なサウンドと認識されてた気がします。
断っておくと、店主はHYDE OUTの、NUJABES的な耳当たりのいいサウンドも好きだし、現場でDJしていた当時は早めの客入れタイムなんかではプレイもしてたクチで、FUNKY DLのWASHINGTON CLASSICSからの初期音源とか、それこそジャズをネタにした西海岸地下勢と一緒にかけてたことを思い出したりもして。
ただ、レゲエと共にレベルミュージックの代表格たるヒップホップとは成り立ちが違って、厳密にはリスナー層も少しズレてたりするんだけど、「(ジャジーな)ヒップホップ」という呼び名にヘッズは反応してしまうのかなと。
もう少し深堀りすると、HYDE OUTのカタログは前述の通りGUINNESS RECORDSが旗振りしてたけど、それに似た感じで追随してたようなレーベルも当時いくつか在って。
具体的にはSUBCONTACT(何気に、日本語ラップのヘッズにもお馴染みのHIMUKIもココから出てきてる)とかMIC LIFE、BAD NEWSとか、同じぐらいの時期に立ち上がったJAZZY SPORTも当時はそっち寄りの印象だったと思う(今となっては、かなり毛色が違うけど)。
あと、2000年前後を境に、売れ線に分かりやすく舵を切ったマンハッタンレコードが、自分達のレーベルのHANDCUTS RECORDSでそっち系もフックアップしたりして、より大きなムーブメントになったし、実際レコ屋の商い的な観点で言えばカフェ需要っていうのが、多分けっこう大きかったんだろうなと。
そんな背景があって、分かりやすくパッケージして売るために独自の呼称も必要だったし、そんなこんなでいつの間にか「JAZZY HIPHOP」なるカテゴライズが根付いてた、そんな感じだった気がする。
リアルタイムで通ってきた店主も、正直「JAZZY HIPHOP」って呼び名にはあまりピンと来てないんで、当店でもカテゴリーには採用してないけど、その方が通りが良いかも、とは思います。
だから、単にポリシーの問題ですね、これは。
それで言うなら「TRIP HOP」とかも当店は採用してないので、認めてる・認めてないとかの話じゃなくて、自分的にしっくりきてるかきてないか、ただそれだけの話かと。
だから、呼び方一つで論争になるのは残念で。
個人的には呼び方は関係無く「イイものもある、だけど悪いものもある」(@YMO)の精神すね。
かつて自身の作品を「TRIP HOP」にカテゴライズされたDJ KRUSHが「勝手にラベリングするな、俺の作品ジャンルはDJ KRUSHだ」と(主に販売店とかメディアに)怒って、実際に以降の作品のCDの帯にDJ KRUSHって印字してるという逸話もあるぐらいで、ジャンルは本当にどう呼んでもいいと思います。
リスナーに届きやすくする為だけのラベリングであって、良し悪しを決めるものじゃなく、あるのはリスナー個々の好き嫌いだけ(まあ、ジャンルそのものは流通とか宣伝なんかを考えると便宜上、撤廃はできないので)。
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