本日10月20日は、調べてみるとV.A.「24 HOUR KARATE SCHOOL JAPAN」のリリース日で(2010/10/20) 。※CDのリリース日
USのベテラン・プロデューサー、SKI BEATZ(SKI)が手掛けたV.A.「24 HOUR KARATE SCHOOL」のタイトル通りの日本版は、国内のR-RATED RECORDSが主導し、若手からベテランまで当時のシーンの顔役が一堂に会したことで日本でも一大プロジェクトになりました。
まだリースビートという概念が無かったと思われる時期に、SKI BEATZのビートをアルバム単位でそのまま拝借し、全曲MCだけを乗せかえた日本版という企画自体も非常に斬新で、故にこれを見事に成立させてみせたレーベルの格は本作以降、更にもう一、二段上がったように感じます。


V.A.「24 HOUR KARATE SCHOOL JAPAN」
(R-RATED RECORDS/JPN BOXSET・12″×7/RRVL-0010)
A-1 韻踏合組合”AMEMURAN DREAM”(ORIGINAL)
A-2 韻踏合組合”AMEMURAN DREAM”(ACAPELLA)
B-1 SEEDA”GO”(ORIGINAL)
B-2 SEEDA”GO”(ACAPELLA)
C-1 般若”日本人ラッパー総選挙”(ORIGINAL)
C-2 般若”日本人ラッパー総選挙”(ACAPELLA)
D-1 TETRAD THE GANG OF FOUR”JAPANESE TOKKOTAI BANCHO”(ORIGINAL)
D-2 TETRAD THE GANG OF FOUR”JAPANESE TOKKOTAI BANCHO”(ACAPELLA)
E-1 ANARCHY, RINO LATINA 2, 漢, MACCHO”24 BARS TO KILL”(ORIGINAL)
E-2 ANARCHY, RINO LATINA 2, 漢, MACCHO”24 BARS TO KILL”(ACAPELLA)
F-1 ZEEBRA, SIMON, D.O, SHINGO★西成”24 BARS TO KILL”(REMIX feat. DJ TY-KOH)
F-2 ZEEBRA, SIMON, D.O, SHINGO★西成”24 BARS TO KILL”(REMIX)(ACAPELLA)
G-1 GAZZILA”MY CITY”(ORIGINAL)
G-2 GAZZILA”MY CITY”(ACAPELLA)
H-1 RYUZO, B.I.G JOE”HEAVEN’S DOOR”(ORIGINAL)
H-2 RYUZO, B.I.G JOE”HEAVEN’S DOOR”(ACAPELLA)
I-1 バラガキ, ZEUS”RUNNIN'”(ORIGINAL)
I-2 バラガキ, ZEUS”RUNNIN'”(ACAPELLA)
J-1 TWIGY, DABO”MCW(MECHA CUCHA WARU)”(ORIGINAL)
J-2 TWIGY, DABO”MCW(MECHA CUCHA WARU)”(ACAPELLA)
K-1 ANARCHY, LA BONO, RYUZO”ROC RATED”(ORIGINAL)
K-2 ANARCHY, LA BONO, RYUZO”ROC RATED”(ACAPELLA)
L-1 KGE THE SHADOWMEN”REMEMBER SHADOWMEN”(ORIGINAL)
L-2 KGE THE SHADOWMEN”REMEMBER SHADOWMEN”(ACAPELLA)
M-1 SMITH-CN”FOLLOW ME”(ORIGINAL)
M-2 SMITH-CN”FOLLOW ME”(ACAPELLA)
N-1 ISSUGI, S.L.A.C.K.”HEY TAXI”(ORIGINAL)
N-2 ISSUGI, S.L.A.C.K.”HEY TAXI”(ACAPELLA)
ALL TRACK PRODUCED BY SKI BEATZ!
というだけでも、日本語ラップ史においての本作の存在意義が非常に大きいのは明らかですが、本家の「24 HOUR KARATE SCHOOL」と比較してみると、原曲がインストだったり、本編には未収録になってしまった楽曲のビートまで借り入れて、それぞれのアクトが自分達の色にしっかりと染め上げていて興味深い限り。
個別にも販売された7枚の各12″をコンパイルし、2010年クリスマスに100セット限定のナンバリング仕様でリリースされたボックスセットは、元々の流通数が少ないせいか、さすがに中古市場でも滅多に見掛けません。
全曲レビュー
01 – 韻踏合組合”AMEMURAN DREAM”
幕開けを飾る韻踏合組合の一曲は、本家には未収録だったMOS DEF参加の”24 HOUR KARATE SCHOOL”のビートをジャック。
定番ブレイク、EDDIE BO”HOOK AND SLING”をザックリと使用した大味なプロダクションは、本編に収録するには権利的にちょっとアレだったということなのか、元々ストリートプロモーション用のビートだったのかは分かりかねますが、ともかく韻踏合組合の面々が入り乱れる派手な仕上がり。
アメ村を根城にする彼等が、海を越えてUSプロデューサーのSKI BEATZ作のビートに乗った事実を、アメリカンドリームならぬ”AMEMURAN DREAM”と呼んでみせたセンスにニヤリとさせられます。
02 – SEEDA”GO”
続くSEEDAのソロ曲”GO”は、本家ではJIM JONESとCURREN$Yが参加した同名曲のビートをジャック。
タイトルを揃えているだけでなく、フックを含めて明らかに本家を意識した仕上がりなんで、聴き比べても面白い感じ。
SEEDAのキャリアを振り返ると、同年の「BREATHE」でラッパー復帰し、以降ややメジャー指向でよりキャッチーな作風になり始めていた頃なんですが、ここではMICKEY & THE SOUL GENERATION”MESSAGE FROM A BLACK MAN”(TEMPTAIONSの同名曲のカヴァー)を使用したドス黒いビートに合わせて、ハードでトリッキーなフロウを聴かせています。
03 – 般若”日本人ラッパー総選挙”
本家はCOOL KIDSとSTALLEYが参加した”DO IT BIG!!”のビートですが、般若はまったくの独自解釈でタイトル通り、日本語ラップMCの総選挙と銘打ってZEEBRAをはじめ、ANARCHY、RYUZO、AK-69、M.O.S.A.D.、MACCHO、KREVA、RIP SLYME、漢、MICROPHONE PAGER、RHYMESTER、NORIKIYO、THA BLUE HERB、SEEDA、SHINGO★西成、COMA-CHI、スチャダラパー、K-DUB SHINE他、シーンで活躍するアクトを矢継ぎ早にネームドロップしまくる珍曲。
最後には、自身のエントリーもキッチリと滑り込ませていて、「般若でした」と締める構成にニヤリとさせられます。
04 – ANARCHY, RINO LATINA 2, 漢, MACCHO”24 BARS TO KILL”
リリース時、YOUTUBE上で大REMIX大会が全国各地で巻き起こったことでもお馴染みの日本版のリードトラック。
本家はJEAN GRAE、JAY ELECTRONICA、JOELL ORTIZの3MCが参加していた”PROWLER 2″で、USのロックバンド、BLACK KEYSのフロントマン、DAN AUERBACH”THE PROWL”を大味で使用し、ラップでの続編的な一曲でしたが、個人的には完全にシーンの大物が集結した日本版の”24 BARS TO KILL”に軍配!
4MCの日本版は、3MCの本家より倍近くも引き伸ばした長めの作りですが、それを一切感じさせないぐらいスリリングなマイクリレーが強力。
原曲の格好良さがあればこそ、それに負けない気持ちで数多くのREMIXが制作されたのだと思います。
以降、YOUTUBEやフリーダウンロードでのREMIX大会がシーンで定番化しますが、ビッグネームの参加も多く全国的に広く波及したのは、R-RATED RECORDSが旗を振ったことが大きな推進力になったことは間違いありません。
今となって振り返れば、ネットプロモーションが激化し始めた時期的なタイミングの問題もあるかもしれませんが、コレ以上のムーブメントはいまだシーンで起こっていないし、今後もここまでの規模感では起こり得ない気がします。
折角なので、主要なREMIXの参加メンツも(挙げるとキリがなくなるので一部のみ)。
2023年現在、まだYOUTUBE上に消さずに音源を残してくれているR-RATED RECORDSとSKI BEATZは、やっぱり粋だと思います。
05 – TETRAD THE GANG OF FOUR”JAPANESE TOKKOTAI BANCHO”
NIPPS、B.D.にVIKN、SPERBの4MCグループ、TETRAD THE GANG OF FOURの”JAPANESE TOKKOTAI BANCHO”の本家は、CAMP-LOが参加した”BACK UP TOWN”。
SKI BEATZ作のトリッキーなビートに乗って、”KILLA INDO”バリにキラーワード連発、タイトなマイクリレーを披露しています。
特に、初期のBUDDHA BRAND時代を彷彿させるようなNIPPSヴァースは、よく聴くとド頭の「24時間空手道場~」に始まり、「極真空手 大山倍達」とか「黒帯師範」、「道場破りスタイル、回し蹴り」みたいに、意外ときっちり企画趣旨に則ったフレーズを織り込んでいるのもニクい感じ。
BUDDHA ABRAND”ILLSON”のフックをサラリと歌い込んだギミックのみならず、当時TETRAD THE GANG OF FOURやSEXORCIST名義や客演仕事で精力的にリリースを重ねていたNIPPSの同時期の関連作品においても、特にキレていた仕事の一つだと思います。
06 – GAZZILA”MY CITY”
後にR-RATED RECORDSに正式に移籍することになるGAZZILAは、当時はまだ外部からの参戦扱いだったはずですが、ソロ曲で存在感をアピール。
「24 HOUR KARATE SCHOOL」本編には未収録だったMOS DEF、CURREN$Y等参加の”AERIALS”(WEE”YOU CAN FLY ON MY AEROPLANE”使用!)をアレンジし、よりドラマチックに仕上げたビートで、GAZZILAがソロで地元・大阪への愛と感謝を歌うリリックともマッチしています。
07 – RYUZO, B.I.G JOE”HEAVEN’S DOOR”
関西シーンを牛耳っていたRYUZOと、北の大物、B.I.G JOEが初共演した”HEAVEN’S DOOR”は、本家ではMOS DEFがラップするはずだったのが権利関係でお蔵入り、結局ラップ抜きのインストとして収録された”CREAM OF THE PLANET”のビートを使用。
BLACK HEAT”SEND MY LOVER BACK”を余すことなく使い切ったビートに呼応するように、RYUZOとB.I.G JOEのマイク交換も激渋。
両者が掛け合うフックのみならず、よく聴くとヴァースでも互いに被せやガヤも入れてたりして、巷に溢れる企画盤のお手軽ジョイントとは一味違う、熱量の高い共演仕事になっています。
08 – バラガキ, ZEUS”RUNNIN'”
YELLOW DIAMOND CREWの2トップ、バラガキとZEUSによる”RUNNIN'”の本家は、WIZ KHALIFAとCURREN$Yが参加した”SCALING THE BUILDING”。
RICK WAKEMAN”PT.4 : THE REALISATION”を使用した渋いビートで、V.A.「CONCRETE GREEN 6」に提供していた”Z&B BEGINNING”よろしくのフレッシュなコンビネーションを披露しています。
改めて本編の流れで見ると、意図して前曲のRYUZO, BIG J.O.E”HEAVEN’S DOOR”と対になるイメージで配置されている気がします。
09 – KGE THE SHADOWMEN”REMEMBER SHADOWMEN”
本家はSKI BEATZ~CURREN$Y周辺からフックアップされたソロマイカー、STALLEYが歌う”S.T.A.L.L.E.Y.”なんですが、それを踏まえて日本版のKGE THE SHADOWMENも恐らくは敢えて同じセルフボーストのリリックを用意。
開始早々、「ファッキンジャップの意味ぐらい分かるよ、バーーカ」とビートたけし監督映画「BROTHER」の名セリフを引用し、いかにも彼らしいキャラクターを発揮した悪童振りが良き。
豪華メンツが犇めき合う本編においても、大きなインパクトを残しています。
10 – ANARCHY, LA BONO, RYUZO”ROC RATED”
本家は、RAS KASSやSTALLEY等が参加した”I GOT MINES”でしたが、日本版ではR-RATED RECORDSメンバーによるレーベルアンセムに変身!
US版は(恐らくNICOLE WRAYの変名の)NIKKI WRAYがフックを歌い、ロッキッシュな雰囲気が強かったですが、こちらはフックもANARCHYが担当し、もっと男臭い仕上がり。
BLACK KEYS”I GOT MINE”を使用したビートの破壊力は”24 BARS TO KILL”並みで、作中屈指のヘッドバンガーだと思います。
11 – TWIGY, DABO”MCW(MUCHA CUCHA WARU)”
ほぼ無名の新鋭、RUGZ D. BEWLERが参加した本家の”SUPER BAD”に対し、日本版は参加メンツの中でも屈指のベテラン、TWIGYとDABOが”むちゃくちゃワル” = “MCW”、シンプルに本家のコンセプトに合わせ打ち。
SKI BEATZのトリッキーなビートに、フロウ巧者として知られる2人が参戦ということで当初の期待値は高かったかもしれませんが、作中では取り立てて目立った出来ではなく。
終始、驚くようなフロウも聴けず、メンツの豪華さにしては平凡な仕上がりと言えるかも…。
12 – SMITH-CN”FOLLOW ME”
今にして思えば、GAZZILA”MY CITY”共々、後にR-RATED RECORDSに合流するSMITH-CNもまた、この時点でソロ曲を宛がわれているところを見ると、すでに移籍は内定していたということなのか(?)、恐らくはレーベルでの顔見せ的意味合いも含んだソロ曲。
本家はTABI BONNEYが参加した”NOT LIKE ME”でしたが、日本版ではSMITH-CNの”FOLLOW ME”に様変わり。
決して派手ではないけど、SMITH-CNの変態的なまでにねっちこいラップがクセになる仕上がりになっています。
13 – ISSUGI, S.L.A.C.K.”HEY TAXI”
またしても本家ではMOS DEFがラップするも権利関係からお蔵入り、結局インストで収録された”TAXI”ビートの無念を晴らすが如く、日本版ではMONJUのISSUGIとS.L.A.C.K.(5LACK)が”HEY TAXI”として見事完成。
PERSUADERS”THIN LINE BETWEEN LOVE AND HATE”をブツ切りにしたビートは、確かにISSUGIやS.L.A.C.K.と縁が深い16FLIP、もしくは活動初期のS.L.A.C.K.自身の作風とも通じるところがあるんで、コレは人選の勝利か。
ビートに完璧にアジャストしてて、ここだけ聴けばDOWN NORTH CAMP周辺のV.A.に収められていたとしても全く違和感の無い仕上がりだと思います。
次のボーナストラックを省けば、本編としてはラスト曲になるんで、US版と揃えているところに作品構成の美学を感じますね。
14 – ZEEBRA, SIMON, D.O, SHINGO★西成”24 BARS TO KILL”(REMIX)(feat. DJ TY-KOH)
ボーナストラックとして、”24 BARS TO KILL”の、ZEEBRA、SIMON、D.O、SHINGO★西成に、煽りでDJ TY-KOHを加えた豪華メンツでのREMIXを収録。
楽曲のコンセプトとしては正解と言える戦闘モードのZEEBRAとSIMONよりも、むしろマイペースにキャラで押してくる後半のD.OとSHINGO★西成ヴァースの方がインパクトが強いのは少し皮肉な気もしますが、そんな感じ。
特に、D.Oは同時期にリリースした、お勤めからのカムバック曲”I’M BACK”のラインの流用が目立っててフリースタイルっぽいノリではあるけど、そんなラフさ加減もまた良き。
この公式REMIXも、もちろん他の殆どのREMIX同様、オリジナル・バージョンのビートをそのまま使用しているんで、DJのやり方次第でお好みのメンツでのマイクリレーが作れるっていうのが斬新だったし、REMIX大会が盛り上がる程、DJとしてはソースが増えていく楽しみもあったわけで、シンプルにプロモーション手法として秀逸だったと改めて感じます。

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