NAS”BRIDGING THE GAP” – 映画「クリード チャンプを継ぐ男」

映画と音楽を語りたい、そんな風に強烈に感じさせてくれたのは、ベタですがやっぱりMCUの「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズなんですけども、呼応するようにそれ以降、映画の劇中挿入歌の使い方はかなり変わってきた気がしていて。
映画演出として、シーンに挿入歌の歌詞、時には楽曲が持つ背景までリンクさせる表現がスタンダートになりつつある中、映画のシーンや登場人物の心情を読み解くような読解力はもちろんですが、BGMの挿入歌も聞(聴)き知る、そんなリテラシーがあればこそ、今後は更に映画そのものを深く味わうことができるように思います。
そういう意味では、O.S.T.に収録されるような映画のオリジナル楽曲(BGM)よりも、権利的に多少ややこしくても既発曲を使えば盛り込める情報量はよりリッチになるわけで。
それって、ながら見がデフォルトになっているテレビではなく、(基本的に)お金を払って主体的な態度で向き合う前提の映画にこそ最適な演出術だと思います。

前置きが長くなりましたが。
で、今更ながら今年シリーズ3作目で(やや尻つぼみに…)完結した映画「クリード」シリーズの1作目「クリード チャンプを継ぐ男」を観て、改めて映画と絡めて音楽(レコード)を語りたい、音楽的背景を備忘録としても書き留めておきたいと感じた次第。

クリード チャンプを継ぐ男(英題「CREED」/2015年公開)

公開時、RHYMESTER宇多丸のTBSラジオ「週刊映画時評ムービーウォッチメン」ですごく評価が高かったのと、その後「シネマランキング2016」でもチャンピオン枠として担がれてたんで、ずっと気になってはいたものの、恥ずかしながら店主がこれまで「ロッキー」シリーズをほぼ通っていないこともあり、なんとなくスルーしちゃってました。
映画自体の解説はもう今更感しかないので割愛しますが、結論「ロッキー」シリーズの2010年代以降の正しいアップデート版って感じで、男なら観れば皆きっと滾るものがあるはず。
鑑賞後、シャドーボクシングをしたくなるタイプの良きボクシング映画でした。

メタ的な視点で付け加えると、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」が次世代のスペースオペラ、当然「スター・ウォーズ」だけど、本作も当然ながら次世代の「ロッキー」(正確にはエピローグ的スピンオフか?)で。
明かなリメイク作品とも言える両作品が傑作に成り得たのは、それぞれがオリジナルの焼き直しに終わらずに、現代風のアップデートがうまく機能していたとこに他ならないと思います。
前者は(設定上)CG必須、故にテクノロジーの進化も大きなウエイトを占めていたと思いますが、「クリード」においては「ロッキー」シリーズとの距離感に加えて、音楽の使い方のウエイトもそれなりに高かったと思います。

フィリーにタクシーで向かうシーンではROOTS”THE FIRE”(JOHN LEGEND参加)とか、フィリーでのトレーニングのシーンではMEEK MILL”LORD KNOWS”みたいに、同郷アーティストの既発曲を上手に使って盛り上げてくる感じとか。

ちなみに、アドニス(アポロ・クリードの息子で、本編の主人公)の恋人、ビアンカ絡みのシーンで挿入される、やけに妖艶で洒落た雰囲気の”GRIP”/”BREATHE”は女優のTESSA THOMPSON自身が映画の為に歌った楽曲になっています。
もういっちょ、メタ的なことを言うと、アドニスことMICHAEL B. JORDANはMCUの「ブラック・パンサー」でキルモンガー役を、TESSA THOMPSONは「マイティ・ソー」シリーズでヴァルキリー役を演じていて、それぞれMCUに参戦済み。
何なら、ロッキーことSYLVESTER STALLONEも「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズにスタカー役で参戦してるんで、メインキャストの3者がMCUに登場しているのも面白い共通点だと思います。

少し脱線しましたが、そんな中でも掘り下げたいのは、本編中盤にロッキーとアドニスの二人三脚でのトレーニングシーンで挿入されるNAS”BRIDGING THE GAP”。

NAS_BRIDGING THE GAP_表
NAS_BRIDGING THE GAP_裏

NAS(NASIR JONES)”BRIDGING THE GAP”
(COLUMBIA/UK 12″/675468 6)

A-1 BRIDGING THE GAP(feat. OLU DARA)(ALBUM VERSION)
A-2 BRIDGING THE GAP(INSTRUMENTAL)
B-1 DOO RAGS(EXPLICIT VERSION)
B-2 THE WORLD IS YOURS(ALBUM VERSION)

写真は、UKピクチャー盤の12″で、US盤の12″では”BRIDGING THE GAP”のみの収録(インスト/アカペラ付き)でしたが、UKピクチャー盤の12″には”DOO RAGS”と、(なぜか)往年のクラシック”THE WORLD IS YOURS”を収録していて、ちょっとお得な気分。

ヒップホップリスナーにはお馴染み、2004年の7THアルバム「STREET’S DISCIPLE」からのクラシックで、NASの実父にしてジャズ畑でコルネット奏者として活躍するOLU DARAを迎え、NAS自身の生い立ちをOLU DARAとの思い出を交えて語る親子共演曲。
SALAAM REMIが手掛けたMUDDY WATER”MANNISH BOY”を使用したブルージーなビートは、リリース当時も決して最先端のサウンドというわけではありませんでしたが、むしろ敢えて懐古的サウンドをリサイクルすることでタイトル通り、昔と今、父の前時代とNASの現代とのギャップを埋める、橋渡し的な意味合いも含んでいたと思ってて。
そもそも、そんな”BRIDGING THE GAP”自体がよく出来ていて自分も大好きな一曲なんですが、それをロッキーとアドニスの関係性に重ねて聴かせるアイデアがとっても秀逸で。
ラスト、試合の盛り上げどころで「ロッキー」印のBILL CONTI”GOING THE DISTANCE”の挿入はもはや反則として、それ以外だと非常に目立っていた一幕だと思います。

あとは、ロッキーがフィリーで鼻歌で歌ってたHAROLD MELVIN & THE BLUE NOTES”WAKE UP EVERYBODY”も、「あぁ、世代的にロッキーが歌うのは70年代のフィリーソウルなんだ」とか、楽曲にちなんで確かに朝のシチュエーションだったことにもニヤリ!

アドニスが何かする時に挿入されるのは、MEEK MILLとかFUTUREとか、当時の最先端ヒップホップなんで、そこも含めて面白い対比になってるな、と。
この辺りは、挿入された既発曲の背景を知ることで、確実に映画の味わいが増す一幕として是非覚えておいていただければ(トリビアとしても)!

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