本日7月20日は、調べてみるとRHYMESTERの3RDアルバム「リスペクト」のリリース日で(1999/07/20) 。※CDのリリース日
95年の2NDアルバム「EGOTOPIA」ももちろんクラシックですが、本格的にRHYMESTERが日本語ラップの王道を歩み始めたのは本作からだったように思います。
2023年6月にリリースされた「OPEN THE WINDOW」の評価が(特に古参のファンからほど)大いに荒れたばかりなので、往年の名盤を今こそ!
RHYMESTER「リスペクト」
(NEXT LEVEL/JPN 2LP/NLAD-029・30)
A-1 R.E.S.P.E.C.T
A-2 キング オブ ステージ
A-3 「B」の定義(feat. CRAZY-A)
A-4 B-BOYイズム
B-1 麦の海
B-2 HEY, DJ JIN
B-3 マイクの刺客(DJ JIN 劇画REMIX)
B-4 野生の証明
C-1 ブラザーズ(feat. KOHEI)
C-2 ビッグ・ウェンズデー(feat. MAKI THE MAGIC)
C-3 隣の芝生にホール・イン・ワン(feat. BOY-KEN)
D-1 敗者復活戦
D-2 耳ヲ貸スベキ
D-3 リスペクト(feat. ラッパ我リヤ)
90年代にリリースされた数ある日本語ラップ作品の中でも、キングギドラ「空からの力」、ZEEBRA「THE RHYME ANIMAL」辺りと並んで、今なお根強く評価される日本語ラップの名作。
12″シングルもクラシック化している”B-BOYイズム”/”耳ヲ貸スベキ”、DJにスポットを当てた”HEY, DJ JIN”、BOY-KENを迎えたレゲエ風味の”隣の芝生にホール・イン・ワン”、先人を招いてリスペクトを込めた実質的CRAZY-Aのソロ曲”「B」の定義”、MUMMY-Dの実弟のMELLOW YELLOWのKOHEI(KOHEI JAPAN)を迎えた”ブラザーズ”、そして締めに据えられたラッパ我リヤとの共演曲”リスペクト”他、アルバム全14曲という奥行きをフル活用したトピック選びとバランス感で、前述の2作と共に日本語ラップアルバムの手本を示したような仕上がりこそが、その王道たる所以かと!
全曲レビュー
01 – “R.E.S.P.E.C.T”
イントロのスキットは、正しくアイドリングタイム。
JACK MCDUFF”RADIATION”を使用したビートに、ヴォイスチェンジャーで声色を変えた宇多丸とMUMMY-Dが本編への誘う導入で、MEGA-G企画の「BASIC TRAINNING」で再現されていたことでもお馴染みのはず。
R、E、S、P、ECT~♪
02 – “キング オブ ステージ”
イントロに続く実質的1曲目は、自らの二つ名にして、96年からスタートしたライブツアー名にもなった一曲!
MANFRED MANN CHAPTER 3″TIME”を使用した重厚なビートに乗って、冒頭から掛け合いでグイグイ引っ張るRHYMESTERらしい仕上がりで、ライブの一曲目っぽい雰囲気も良き。
不意に差し込む声ネタ、自身の”口から出まかせ”からの「マイク握りしめスキルをPR」/「R.H.Y.M.E.S.T.E.R」も、派手さは無いけどにわかに盛り上げてくれます。
03 – “「B」の定義”(feat. CRAZY-A)
ここでレジェンドMCにしてROCK STEADY CREW JAPANのリーダーでダンサーとしても名を馳せる、彼等にとって兄貴分と言えるCRAZY-Aの実質的なソロ曲。
JAKE WADE & THE SOUL SEACHERS”SEARCHING FOR SOUL PT.1″をベタ敷きしたファンキーなビートは、いかにもDJ JINらしいネタ使いですが、そこに乗ってくるCRAZY-Aのラップもタイトル通り、B-BOYのBを定義する内容で、次曲へのブリッジとしてこれ以上なく機能しています。
04 – “B-BOYイズム”
4曲目にして、満を持して配置されたクラシック”B-BOYイズム”が登場。
Bボーイ = ブレイクダンサーの永遠の定番、JIMMY CASTOR BUNCH”IT’S JUST BEGUN”のイントロからして、前曲からの振りを受けた流れが最高!
DICK HYMAN”GIVE IT UP OR TURN IT LOOSE”(こちらもJAMES BROWNによる原曲はブレイクダンサーの定番!)をメインに据えたネタ使いも含め、出来るべくして出来たブレイクダンサー・アンセム。
スクラッチで挿入される「自分が自分であることを誇る」は、言うまでもなくK-DUB SHINE”ラストエンペラー”からの一節で、(元々、同曲の象徴的なパンチラインではあったけど)本作で使用されたことで改めて注目されたラインだった気がします。
ちなみに、12″バージョンのみアウトロ代わりに絶叫される声ネタ「B-BO~Y, B-GIR~L!」はRUN DMC”ROCK THE HOUSE”から(アルバム・バージョンでは流れを重視したのか、アウトロ無しのテイクになってます)。
05 – “麦の海”
明らかに一度目のピークを迎えて小休止ってことで、続く5曲目はビール賛歌の”麦の海”。
何気にフックで擦られる声ネタは、かつてMUMMY-Dが客演したDOHZI-T & DJ BASS”流儀”の自身のヴァースから「グラスの中身 なみなみと満たす」/「今夜も昨夜省みず」のラインを引用していたりして、いちいち気が利いてる感じ。
06 – “HEY, DJ JIN”
BOBBY FRANKLIN’S INSANITY”BRING IT ON DOWN TO ME PT.1″を使用した攻撃的なビートは、やっぱりDJ JINの仕事。
タイトル通り、DJ JINを紹介する(?)ような一曲まるごとDJ JIN賛歌で、MC陣とスクラッチで掛け合うような展開が楽しい感じ。
ラップと呼応して声や音ネタを擦る展開も面白くて、MONK HIGGINS & THE SPECIALITES”ONE MAN BAND”みたいな一瞬のフレーズだったり、フックでも”B-BOYイズム”から「ハンパなく ナンバー1」、ラッパ我リヤ”YEAHと言え”から「真の男とは 酒飲んで硬派」等。
何気に、ラッパ我リヤの声ネタは前曲からの流れも受けたものになってて、やっぱりこういう細かいところに気が利いてる!
07 – “マイクの刺客”(DJ JIN 劇画REMIX)
前作「EGOTOPIA」からのブランク中、日米合作ジョイントV.A.「NEXT LEVEL VOL.1」に提供した”マイクの刺客”のDJ JINによるREMIX(オリジナル・バージョンはD.I.T.C.のBUCKWILD仕事)。
BILLY GARNER”I GOT SOME”のドラムブレイクを使用した前ノメリなビートは、不穏な雰囲気を醸すオリジナル・バージョンとは雰囲気が随分違うんですが、何気にアルバムでしか聴けないせいか、忘れられがちな好REMIX!
08 – “野生の証明”
“B-BOYイズム”の12″のB面に収録され、アルバムのリリース前から公開されていた一曲。
AL GREEN”I’M GLAD YOU’RE MINE”のリムショットを使用した南国っぽい雰囲気のビートで、ユルくユニゾンするフックがクセになる感じ。
遅めのBPMに合わせてだいぶのっぺりとさせてますが、イントロ/アウトロの声ネタは”真夜中の闘技場”から「この過酷なサバンナ」、DOHZI-T & DJ BASS”流儀”のZEEBRAヴァースから「勝者だけが生けるこのジャングル」を引用しています。
09 – “ブラザーズ”(feat. KOHEI)
MUMMY-Dの実弟、後のKOHEI JAPANことKOHEIを迎え、ズバリ兄弟をテーマに共演。
いかにも「らしい」感じのCEDAR WALTON”JACOB’S LADDER”を使用したビートはやっぱりMUMMY-D作で、MUMMY-D~KOHEI~宇多丸とマイクがリレーされる爽やかな仕上がり。
ちなみに、翌年にDJ YUTAKA名義で同じメンツかつフックも再利用した”BROTHERS 2000″がリリース済みですが、個人的には原曲の方が好みですね。
10 – “ビッグ・ウェンズデー”(feat. MAKI THE MAGIC)
当時目立った活動は多くなかったものの、呑み仲間のユニット(?)として、MUMMY-DとMAKI THE MAGICはTOP DRUNKERSという名義まで作ってた縁なのか、MAKI THE MAGICが客演として参加。
すでに98年にはキエるマキュウとしてMCデビューを果たしていたMAKI THE MAGICながら、ここではガヤ程度の露出に留まっていますが、その存在感はなかなかのもの。
MAKI THE MAGICは客演のみ、プロデュースはMUMMY-Dの仕事でPIECES OF A DREAM”MT. AIRY GROOVE”を使用しています。
11 – “隣の芝生にホール・イン・ワン”(feat. BOY-KEN)
前作「EGOTOPIA」の”知らない男”に続いてBOY-KENを迎え、その続編と言わんばかりに不倫/浮気ネタの一曲。
MUMMY-D作のビートはORANGE KRUSH”ACTION”を使用したキャッチーなもので、レゲエがかった軽いノリとの相性も良好。
2ヴァース目のMUMMY-Dは、同ネタで知られるRUN DMC”SUCKER MC’S”のパンチラインも引用していたりしてノリノリなのが伝わってくる感じ。
12 – “敗者復活戦”
前曲で最大級に浮ついてたかと思ったら、次は本編一番のダウナー曲ってことでふり幅がスゴい…。
次曲へのフリにもなっているということなのか、”耳ヲ貸スベキ”の「つまりゲームの脱落者 なりたくなきゃてめえが何かしなくちゃ」をラインをフックに据え、暗いムードではあるけど最後には奮い立つ希望を聞かせてくれるんで、そういう意味では後の”ONCE AGAIN”的と言えそう。
12 – “耳ヲ貸スベキ”
問答無用のクラシック!
12″は96年リリースなんで(だいぶ早かった)本編からの1STシングルということになるけど、こんだけ間が空いちゃってたらREMIXとかでもいいのにな、と当時から思ってた記憶…。
AHMAD JAMAL”PASTURES”を使用したMUMMY-D作のビートに乗り、繰り返されるフックが目印。
2023年的な観点だと、やはりMUMMY-DのTHA BLUE HERBのBOSS THE MC(後のILL-BOSSTINO)を比喩したという「北の地下深く 技磨くライマー」ってラインに注目。
2019年のTHA BLUE HERB”TRAINING DAYS”で同ラインが引用された後、2023年に互いに客演し合う形で20年来のビーフの歴史的和解となったTHA BOSS”STARTING OVER”/MUMMY-D”同じ月を見ていた”へ繋がろうとは、当時は当人も想像すらしていなかっただろうから、今となればそんな邂逅の始まりとなったこのラインの重みを改めて感じます。
まあ、このライン自体が直接ビーフに発展したわけじゃないけど、ここが(音源上での)2人の関係性の始まりだったことは間違いないわけで。
13 – “リスペクト”(feat. ラッパ我リヤ)
ラストは、ラッパ我リヤを迎えたタイトル曲”リスペクト”で大団円。
アフロビートの大名曲、FELA KUTI”WATER NO GET ENEMY”を使用したビートに、MC Q~宇多丸~山田マン~MUMMY-Dと、ラッパ我リヤとシャッフルする陣形でリスペクトをテーマに展開するマイクリレーが熱い!
MC Qが”B-BOYイズム”から「目クソ鼻クソのカテゴライズ(消すぞ) 決して譲れないぜこの美学」を、山田マンは”報復(PAY BACK) ’95″から「リアルでアンダーグラウンドでハーコー」の一節をそれぞれ愛の持って引用。
それに応えるように、宇多丸は日本語ラップをたらこパスタになぞらえて「パスタにたらこ足したメニューが定番と化したごとく」と名メタファーを披露していたりと、ヴァースでのやり合いも清々しい。
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