
本日5月29日に晴れて、7″がリリースされることになったDJ TATSUKI”TOKYO KIDS”!
楽曲自体は去年に配信されていて、個人的には耳にした時点で同年ベスト級の楽曲の一つだと確信した次第(その後、オリジナル・バージョンから半年後、REMIXが解禁されて確定…)。
というわけで、”TOKYO KIDS”のリリースを記念して、REMIXに客演したZEEBRAの例のヴァースに言及した旧ブログ記事を再掲します。
日本語ラップ史上、最も有名なパンチラインと言えば、多くのオマージュとパロディーを生み出したDRAGON ASH”GRATEFUL DAYS”のZEEBRAヴァースの歌い出し、「俺は東京生まれ、ヒップホップ育ち。悪そうなヤツは大体友達」に他ならないと思います。
99年、ミクスチャーバンドとして売り出し中だったDRAGON ASHが、SMASHING PUMPKINS”TODAY”を使用したヒップホップ・マナーな楽曲で90万枚の売上を記録、オリコンチャート1位をもぎ取る快挙を成し遂げたこと、そこにヒップホップ畑から顔役の一人であるZEEBRAが参加していたことが当時シーンの内外に大きなインパクトを与えました。
そんなヴァースのド頭は、韻のキャッチーさと面白さでもって、「日本におけるヒップホップらしさ」を象徴する名(迷?)ラインとして、時に愛をもって、時にギャグ混じりに流用されてきて。
リリースから20年以上が経過した今なおリメイクされる事実には、改めて同ラインの一般層への浸透度(と汎用性の高さ)に驚かされます。
(「細かすぎて伝わらないモノマネ」なんてジャンルも存在しますが)基本的に最低限の認知、浸透をしていなければパロディー自体が成り立たないので、日本語ラップ畑において、そんな条件が成り立つ数少ないミームの一つと言えるはず。
また、ZEEBRAの本家よろしく、多くのオマージュ/パロディーが歌い出しの第一声にブチ込んでいるのもポイントで、いわゆる「掴み」として機能することが引用率の高さに繋がっているものと分析します。
DRAGON ASH”GRATEFUL DAYS”(1999)
俺は東京生まれ、ヒップホップ育ち。悪そうなヤツは大体友達
DRAGON ASH”GRATEFUL DAYS”(ZEEBRA VERSE)
言わずもがなの本家、ZEEBRAヴァースから。
当時のライブ映像においても、登場から溜めに溜めて、第一声にこのパンチラインから入ってドカン!みたいな、あのインパクトは鮮烈過ぎました。
ZEEBRA”男の条件”(2000)
俺は東京生まれ、ヒップホップ育ち。ここじゃ通んねえぜ、青い能書き
ZEEBRA”男の条件”(ZEEBRA VERSE)
時系列に並べて見ると、翌年に自身で誰よりも早くリサイクルしてる事実!
ZEEBRA自身ですら2000年時点では、以後長らく愛され続ける名ラインになると予想してたかどうかと言われると、さすがにそうではなかったはず…!
原曲時よりもガナりが強く、より「悪そう」でハードな印象で、さらに「生き残るヤツは大体同じ、命張ったマジな男達」と続きます。

K-DUB SHINE”渋谷のドン”(2004)
渋谷生まれ、渋谷育ち。悪そうなヤツら敵どもだし
K-DUB SHINE”渋谷のドン”
次が、キングギドラの相方、K-DUB SHINEが悪そうなヤツは、友達じゃなくて敵だとセルフボースト混じりで引用。
本作収録の2004年の3RDアルバム「理由」は、キングギドラのリユニオン〜2度目の活動休止を経ての作品ということもあり、色々と勘繰らせるラインと言えそう。
ただ、ZEEBRA自身によるセルフリサイクルに次いで、このラインにいち早く反応したのが(元)相方だったというのは美談とも言えるかも?

ユリオカ超特Q”HAGE=RAP”(2005)
俺は東京生まれ、ヒップホップ育ち。ハゲてるヤツは大体友達
ユリオカ超特Q”HAGE=RAP”
ZEEBRA、K-DUB SHINEと来て、DJ OASISを飛ばして(?)、なぜかここに来てお笑い芸人のユリオカ超特Q!
この流れがすでにギャグなんですが、(テーマこそ「禿げ」だけど)割としっかりと練られた楽曲だけにパッと聴き、そこまで(ZEEBRAにとっての)黒歴史的な印象はないと思います。
歌い出しから、「ハゲそうなヤツと、大体同じ。ハゲの道歩き、見てきたこの髪」まで”GRATEFUL DAYS”を下敷きにした韻を披露していて、よく聴けばちゃんと愛あるオマージュだと分かるはず。
その辺を再評価されてか(?)、2021年にP-VINEからまさかの7″化…!

RHYMESTER”東京, 東京”(2006)
俺は港区生まれ、文京区育ち。周りは至ってフツーの人達
RHYMESTER”東京, 東京”(宇多丸VERSE)
ZEEBRA、K-DUB SHINEのキングギドラとは、”口から出まかせ”以来の長い付き合いとなる、RHYMESTERの宇多丸も自身の東京讃歌で軽く引用済み。
早稲田大学のソウルミュージック研究会GALAXY出身で、キャリア初期からライター業も並行して行っていた文系Bボーイのハシリ(?)のような存在の宇多丸だけに、サラリとした等身大のオマージュ。
MACCHO, NORIKIYO, 般若 & DABO”BEATS & RHYME”(2013)
長渕生まれ、ヒップホップ育ち
MACCHO, NORIKIYO, 般若 & DABO”BEATS & RHYME”(般若VERSE)
DJ HAZIMEの日本語ラップ・ミックス「JAPANESE HIPHOP HITS VOL.2」用の撮り下ろし作”BEATS & RHYME”で、般若も得意のフリースタイル感覚でワンセンテンスのみを軽く引用。
RHYMESTER”東京, 東京”以来、目立った引用の無かった同ラインが、十分な熟成期間を経て(?)本作を皮切りに再注目を集めることとなる狼煙、と言うにはあっさり過ぎ?
パンチラインとして評価するなら、MACCHOヴァースの「どの口が何言うかが肝心」の方が印象的かもしれません。
KEN THE 390″SHOCK”(2014)
俺はアイドル生まれ、ヒップホップ育ち。敵の数の分、増えた友達
KEN THE 390″SHOCK”(SKY-HI VERSE)
KEN THE 390の数あるポッセカットの中、KREVAやMUMMY-Dといった大物を招集した”SHOCK”では、アイドルラッパーのSKY-HIが自身の出自を絡めて自虐混じりに引用しています。
原曲の「友達」まで引用している辺りにニヤリとさせられます。
DAOKO”もしも僕らがGAMEの主役で”(2019)
平成生まれ、インターネット育ち。死にたいヤツは大体友達
DAOKO”もしも僕らがGAMEの主役で”
ニコニコ動画から生まれた♀MC、DAOKOもメジャーデビュー後の2019年に引用。
かねてから温めてきたというラインは「らしい」と言えば「らしい」けど、けっこうアッサリめの印象かも。
ただ、結果的にネットラップ世代、ひいてはそんなリスナー層にもミームとしてキッチリと機能しているのが分かるオマージュだと思います。
ZORN”DON’T LOOK BACK”(2020)
俺は平成生まれ、昭和育ち。ラッパー達の歌詞が教科書だし
ZORN”DON’T LOOK BACK”
籍を置いていた昭和レコードからの脱退後、初となるシングルのド頭で引用。
タイトルを”振り返らない”としつつも、昭和育ち = 昭和レコードへの感謝を忘れないラインにグッときたファンは多かったはず。
ここぞというタイミングで引用してみせたZORNのセンスもさることながら、結果的に日本語ラップのミームとして同ラインの存在感が此処に極まった気がします。
MC TYSON”I’M “T””(2020)
俺は大阪生まれ、住之江育ち。悪そうな金持ち、大体友達
MC TYSON”I’M “T””
ZORN”DON’T LOOK BACK”と時を(ほぼ)同じくして、関西のハーフMC、MC TYSONもセルフボースト曲の冒頭で引用しました。
原曲のリリースから20年以上、シーンで2、3世代の入れ替わりを経てなお、オマージュされ続ける同ラインの長寿性に、ただただ驚かされます…。
ベル”零四六”(2021)
生まれも仲間も横須賀育ち、武闘派なヤツラは大体友達
ベル”零四六”
AK-69からの影響でラップを始めたというベルは、ZEEBRAからすればもはや孫世代にあたるぐらいかもしれませんが、悪さ自慢の武勇伝ラップの中でしっかりと引用されていました。
MC TYSON然り、どうやらセルフボーストもののリリックと相性が良いラインのようで。
DJ TATSUKI”TOKYO KIDS”(REMIX)(2022)
俺は東京生まれ、ヒップホップ育ち。イケてるラッパーは大体友達
DJ TATSUKI”TOKYO KIDS”(REMIX)(ZEEBRA VERSE)
美空ひばり”東京キッド”を公式にサンプリングし、日本語ラップでリメイクしたDJ TATSUKI”TOKYO KIDS”は2022年を象徴する作品と言っていい一曲ですが、REMIXではオリジナル・バージョンのIO(KANDYTOWN)、MONYHORSE(YENTOWN)に代わってレジェンド、ZEEBRAと般若が参加。
1ヴァース目を蹴るZEEBRAの歌い出しは、まさかの”GRATEFUL DAYS”セルフリサイクルで、楽曲のテーマがテーマだけに誰の目からも納得の引用ではありますが、自身の”男の条件”から寝かしに寝かせて、このタイミングというのがニク過ぎ!
「歳は違えど気持ちは同じ、飛び抜けたフロウでレップするこの街」、「城南エリアに生を授かり、今も変わらずここに集まり」と、冒頭ライン以降もサラリと複数のラインを重ねて引用し、もはや反則級の客演仕事になっています。
そもそも、美空ひばり音源のクリアランスを得るにあたり、ZEEBRAがDJ TATSUKIと美空ひばりの事務所の橋渡しをしたとのことで、そんな背景も含めて味わい深い名演。
千葉雄喜 & キングギドラ”チーム友達”(キングギドラ REMIX)(2024)
東京生まれでヒップホップ育ち、悪そうなヤツラは大体…
千葉雄喜 & キングギドラ”チーム友達”(キングギドラ REMIX)(ZEEBRA VERSE)
元KOHH、千葉雄喜が巻き起こしたムーブメント、”チーム友達”にキングギドラでサプライズ参戦したかと思ったら、最初のZEEBRAヴァースでいきなり、フックの「チーム友達~」の歌い出しにうまく繋げるブリッジとしてセルフリサイクル。
テーマがテーマだけにウズウズしてたのかもしれないですが(?)、DJ TATSUKI”TOKYO KIDS”(REMIX)での引用があまりに美し過ぎただけに、さすがにおかわりが早過ぎた気がしないでもないですが、でもまあビートジャックのフリースタイルっぽいノリなんで、アリはアリかと!
犬式”山唄”(KEIZOMACHINE! REMIX)(2024)
俺は東京生まれ、東京育ち
犬式”山唄”(KEIZOMACHINE! REMIX)(鎮座DOPENESS VERSE)
「山へ帰ろう〜♪」と歌うフックが印象的な犬式”山唄”の、HIFANAのKEIZOMACHINE!によるREMIX!
ブギ丸に続いて降臨した鎮座DOPENESSが(やっぱり)歌い出しで軽やかに引用、その後「迷わず行けよ」や「元気ですか?」とアントニオ猪木語録も引っ張り出して、ブッ飛んだヴァースを蹴ってます。
最後にオマケ。
2020年にはZEEBRAが自身のYOUTUBEチャンネルで、”GRATEFUL DAYS”のリリック解説をしています。
いまだ黒歴史的に、公式チャンネルでMVの解禁やベスト盤にも未収録という姿勢を貫いているDRAGON ASH陣営との違い過ぎる態度には、色々とモヤッとするところも。
”公開処刑”の発端になった一曲には違いないけど、DRAGON ASH側の態度に変化が見られない限りは原曲のサブスク解禁はもちろん、レコードの再発(ジャケ付き45化、切望…!)も叶うことはなさげ、南無…。
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