SEEDA「23EDGE」 – #np 2024.02.29

本日2月29日(うるう年)は、調べてみるとSEEDAの10THアルバム「23EDGE」のリリース日で(2012/02/29) 。※CDのリリース日
メジャーのUNIVERSALへと主戦場に移して2枚目となる本作は、4年に一度のうるう年にリリースされた珍しい作品。
SEEDAのMCとしてのキャリア的に考えると、4THアルバム「花と雨」や6THアルバム「HEAVEN」辺りの時期をピークと捉えた時には、ストリートからの注目度もやや下がっていた時期のように感じるものの、そこから時を重ねる毎に(極々ゆっくりとではありますが)再評価されてきている気がしないでもないような。

SEEDA_23EDGE

SEEDA「23EDGE」
(EMI/JPN CD/TOCT-28039)

01 – BURBS
02 – SENCE
03 – 運命
04 – DRIFT
05 – 小金持
06 – TOKYO KIDS(feat. BIG-T)
07 – DREAMZ
08 – PURPLE SKY
09 – ISSO SKIT
10 – HOW FAR MY FRIEND
11 – LIVIN’

(二度目の)メジャー移籍作となった前作「IN THE MOMENT」では、日系人プロデューサーのHIROSHIMAとのタッグで、リリース時期的に3.11を意識したリリックも目立っていたけど、当時「前作から約4ヶ月」という触れ込みで出た2012年の「23EDGE」は、恐らく前作収録曲と制作時期が重なっている楽曲も含まれているんじゃないかと思います。
ただ、「23EDGE」にHIROSHIMAプロデュースは一曲も無いので、そっちの没曲が入ってるとかではなく、イメージ的には「IN THE MOMENT」がHIROSHIMA全面プロデュースのコンセプト作品で、「23EDGE」の方は裾野を広げて、もっと自由に制作した感じか。
客演参加は、練マザファッカーのメンバーとしても知られたLUCK-ENDのBIG-Tのみ、そのBIG-Tは翌年の2013年の頭に亡くなってしまっていて、後々その”TOKYO KIDS”がBIG-Tにとっても代表曲として語られることもしばしば。
制作陣はBACHLOGICが最多の4曲、他にはSKY BEATZ、DIGITALBEATZ、ANR、CRADA他、純粋に良いビートを選んだ、という感じ。
ビートはHIROSHIMAのみだけど客演陣は多彩だった「IN THE MOMENT」とは対照的に、こちらの制作陣は多彩な顔ぶれで、客演はほぼゼロという意味で、どこかニコイチな印象もあります。

全曲レビュー

01 – “BURBS”
過去実績関係無しで、新鋭DIGITALBEATZ(ネットで見つけてフックアップしたとか)のビートを採用した一曲目から、いきなり感傷的なムード。
タイトルの”BURBS”はニュアンスが難しいんだけど、ここでの意味はSEEDA自身にとっての「サウダーヂ」みたいな意味合いに近いかも。
エモいビートで、ちょっとした過去回想も交えたリリックは、「3.11の傷がまだ癒えきっていなかった翌年」にリリースされたものであることを踏まえると、より深みが出るかと。

02 – “SENCE”
安定のBACHLOGIC作。
タイトル通り、フックで歌われる「自分のセンスを大事にしろ」っていうのがもちろん主題だけど、同時にヴァースで3度も繰り返される「生まれた時から俺は変わりたい」、常に変化し続けていたいというのが本心なのかなと。
当時メジャーに移籍したことで、かつてのようなストリートでの存在感が薄れかけていた時期と記憶しているんで、そんな外野へのアンサーにもなっていて。
3分にも満たない短いメッセージだけど、「金や女には興味が無い、そんな流行りの(コンビニ)ラップとは一緒にするな」という力強いリリックだと思います。

03 – “運命”
2010年代も後期になると、EXILE周辺や三浦大知辺りの楽曲をプロデュースするまでに成り上がっていたSKY BEATZも、2000年代後期~2010年代前期頃まではまだまだ日本語ラップ仕事がメイン。
そんなSKY BEATZが手掛けた”運命”は、軽快な四つ打ちビートに乗せて、”SENCE”から地続きと言えそうなポジティブなニュアンスの(恐らくはEMI MARIAに向けたであろう)ラブソング。
バキバキのビートで、ストリートの仲間達と騒ぐでもなく、真摯なラブソングを歌うのが当時のSEEDAのムードだった、ということか。

04 – “DRIFT”
BACHLOGIC作のスペイシーなビートに乗って、車についてラップ。
HONDAのシビックやらインテグラ、三菱やSUBARUみたいな車種やメーカー名も飛び交うリリックで、あんまり深い意味の無いフリースタイルっぽい内容かと。

05 – “小金持”
続いてもBACHLOGIC作で、本編リリース前にショート・バージョンのMVも公開された、言わば先行シングル的な一曲。
タイトル通りのマネートークだけど、小金持ちの成金をディスしたいのか、自分自身の大金持ちアピールなのか、何度聴いてもよく分からず…。
まあ、次作のCPF作品「8SEEDS」の特典CDRに収録されたTAMU”金”(REMIX)の客演ヴァースでは、「金・金・金・金、うるせー」と吐き捨てたSEEDAなんで、やっぱり前者なのかな。

06 – “TOKYO KIDS”(feat. BIG-T)
客演で参加した故BIG-Tにとっても代表的な仕事の一つになっている”TOKYO KIDS”は、フロリダのバンドらしいAWESOME NEW REPUBLICことANR作。
スペイシーなビートに乗ってくるSEEDAとBIG-Tのマイクリレーはシームレスと言うか、軽快に淀み無く流れてTYCの心地良いフックに繋ぐ構成も良き。
タイトル通り、現代の等身大の東京での(少しだけ哀しい)毎日を歌うリリックで、正しく2010年代の東京アンセムになっているかと。

07 – “DREAMZ”
新鋭DIGITALBEATZがまたしても激エモいビート(この感覚、今聴くとAPHRODITE GANGにも通じるような…!ビートの質感が少し違うけど)に、「裁判も警察もいらない」とか「お偉いさんなら落とせここまで」みたいなラインがキックされると、少しだけ”DEAR JAPAN”を重ねて聴いてみたり。
「夢を見続けろ」と繰り返すフックを聴くと、”SENCE”に近いメッセージソングという感じか。
個人的には、本編で一番リピートした一曲。

08 – “PURPLE SKY”
これまでにもSEEDAと何度か絡んできているCRADA作。
タイトル通り、紫のシロップと煙に撒かれるような気だるいビートとラップで、ブッ飛んでイライラ陰気を吹き飛ばせ、と。
“SENCE”や”DREAMZ”、”TOKYO KIDS”辺りの真摯さが嘘みたいに、突然ブッ壊れた感じと言うか、ここまでの流れで放り込まれると、ちょっとビックリする気も。
“小金持”と同じくシングル的な一曲で、今はもう公式では見れなくなっちゃってますが、紫色に塗りだくられた少し不気味なMVも当時インパクトがあったのを覚えています。
咽せまくりなアウトロ然り、このリリックをメジャーで、しかもシングル的に出したのは普通にスゴいと思うんだけど、当時そんなに大きな話題になった印象は無いですかね…。

09 – “ISSO SKIT”
盟友DJ ISSOと絡むスキット、単なる箸休め。

10 – “HOW FAR MY FRIEND”
前曲の”ISSO SKIT”で、掛け直した電話がコレってことなのか、繋がりはイマイチ分からないんですが、ライブに来てくれるファン(= 友達)に向けた一曲。
大団円目前、フィナーレに向けてココに配置してくる構成も泣けるけど、まあ”PURPLE SKY”からスキットでも挟まないことには歌えない内容だな、と改めて。
メロディアスなビートはSKY BEATZの仕事。

11 – “LIVIN'”
ラストはBACHLOGIC作、かつての”ALIAN ME”を彷彿とさせるアコースティックな一曲で締め。
“ALIAN ME”では鋼田テフロンことBACHLOGIC自身がフックを歌っていたけど、今度はフックもSEEDAが歌ってて、その辺りに着実な進歩が確認できます。
何気に歌われる「20までに30が決まる、30までに50が決まる」ってラインは真理だし、当時30過ぎぐらいだったSEEDAの50の未来(もう、あと数年後)がこの時、すでに決まっていたのかと思うと、そもそも深い”LIVIN'”のリリックの味わいが更に増すと言うか。
「8SEEDS」をエピローグ的なファンへのボーナスだと捉えるなら、(2024年時点では)「23EDGE」がSEEDAのラストアルバムになっているわけで(「8SEEDS」でのアレコレ含めSEEDAのキャリアを改めて振り返ると、彼はもうEP等はともかく、アルバムはもう作らない気がします)、その大団円が”LIVIN'”だったというのはすごく綺麗な着地とも言えるし、同世代のいちリスナーとして感慨深いところがあります。

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