ILLMARIACHI「THA MASTA BLUSTA」 – #np 2023.11.22

本日11月22日は、名古屋をレペゼンする偉大なるMC、TOKONA-Xの命日(2004/11/22)。
改めて追悼の意味を込めて、彼が世に出るきっかけになったILLMARIACHIのデビュー作「THA MASTA BLUSTA」を振り返ります。
トコナメことTOKONA-Xと、刃頭ことDJ HAZUによる名古屋発のデュオ、ILLMARIACHIは、90年代後期のシーンのかなり早い時期に地方で活動しながらP-VINEディールを勝ち取った伝説的グループで、そんな彼等の唯一のアルバムとなる本作もまた、以降に地方からTHA BLUE HERB(札幌)、餓鬼レンジャー(熊本)、GAGLE(仙台)、MAGUMA MC’S(京都)等、数々のアクトがゲームに参加することとなるシーンの下地をいち早く作ったという意味でも非常に意義深い作品。
また、彼等はHAZU & TOKONA-Xの名義で、本来出演するはずだったBEATKICKSの代役として、さんぴんCAMPにローカル・アクトとして唯一出演した存在としても(ビデオ/DVDで出演パートが全カットされたイワク含め)知られていて、そんな背景もろとも本作においてはやはり外せない軸として「対東京(中央)」という強烈なメッセージが在って、以降に生まれる地方発作品にも多大な影響を与えた一枚だと思います。

ILLMARIACHI_THA MASTA BLUSTA_表
ILLMARIACHI_THA MASTA BLUSTA_裏

ILLMARIACHI「THA MASTA BLUSTA」
(P-VINE/JPN LP/PLP-6650)

A-1 INTRO
A-2 TOKONAIZM
A-3 THA MASTA BLUSTA
A-4 まあわや
A-5 ドンファン DA MARIACHI(feat. BLAZE)
A-6 NAGOYA QUEENS
A-7 ビートモクソモネェカラキキナ
B-1 荒療治
B-2 TOKONA 2000 GT
B-3 YOUNGGUNNZ(feat. 茂千代, KENT)
B-4 博徒九十七
B-5 今昔物語(feat. TWIGY)
B-6 FOR DA BAD BOYS & LADIES(feat. “E”QUAL)
B-7 MARIACHI(GOLD)

当時まだ19歳だったTOKONA-Xが、若さ故のギラつきと共に名古屋弁全開で、東京中心に回っていた中央集権型のシーンに対してハッキリと中指を立てた本作は、同時に日本語ラップ地図上に名古屋という地区を強烈に刻み付けた作品でもあったわけで。
以降、「中央(東京) VS 地方(非東京)」という構図がシーンで定着、ある意味で「お約束化」していったことを考えると、本作が地方のアクトに与えた衝撃は計り知れないものがあります。

全曲レビュー

01 – “INTRO”
ESG”U.F.O.”を使用したビートに少し不気味な雰囲気の声ネタが乗ってくる不穏なイントロは、もちろんDJ HAZU作。
以降、刃頭として和ネタ使いを軸に独特の世界観を創り上げていく手腕の片鱗が、早々に感じられます。

02 – “TOKONAIZM”
「THA MASTA BLUSTA」以前の自主盤12″で早々に存在が確認出来ていた名刺的一曲の再録バージョン。
TOKONA-Xのキャラクターが発揮された分かりやすいセルフボーストもので、その威勢の良さも含めて実質的一曲目に相応しい仕上がり。
自分自身をKOOL G RAP、相棒のDJ HAZUをMARLEY MARLになぞらえたのは、明らかに”NAGOYA QUEENS”を受けたものでしょうが(実際、自主盤のテイクには無いラインでその後書き直した箇所)、言い得て妙な名メタファーだと思います。
ちなみに、ILLMARIACHIとしてかなり早い段階から完成していた楽曲らしく、セットリストで確認する上では、かのさんぴんCAMPのステージでも披露された模様。
非公式ながら、同郷のDJ BLACK TIGERことDJ MITSUによるREMIXの7″も存在しています。

03 “THA MASTA BLUSTA”
“INTRO”から地続きの怪しげなビートに乗って、ノラリクラリとラップするTOKONA-Xも良き。
いちいち引っかかるワードのチョイスも含め、”TOKONAIZM”とはまた違った形でキャラ立ちした一曲だと思います。
2分過ぎから突如ノイジーになるのは、初めて聴く時はちょっとビックリするかも(けっこううるさい)。

04 “まあわや”
下ネタのストーリーテリングなんだけど、それがTOKONA-Xのキャラクター説明にもちゃんとなってる(?)というバランスの妙。
この辺りのリリックの雰囲気は、以降TOKONA-X名義での”DIRTY GO AROUND”辺りにもしっかりと続いていくんで、この時点からブレてない…!
余談ですが、本国ではコンシャスラッパーとして知られるCOMMONが”RETROSPECT FOR LIFE”で中絶の問題を歌っていた時、同年に日本では(フィクションとは言え)TOKONA-Xが”まあわや”を歌っていたというのは、MCのキャラクター比較としてはちょっと面白いような。

05 “ドンファン DA MARIACHI”(feat. BLAZE)
“まあわや”に続き、女たらしのドンファンとして相応の(?)エロいリリックを展開。
フックで妖艶なコーラスを披露しているのがARCのBLAZE?と思われますが、いまいち情報が無く。
S.O.S. BAND”NO ONES GONNA LOVE YOU”を遅回しにした浮ついたビートも、艶っぽい雰囲気を更に盛り上げています。

06 “NAGOYA QUEENS”
いとうせいこうが提唱した”東京ブロンクス”に対するカウンターとして、地元の名古屋をクイーンズに見立て、かのブリッジバトルの日本版を仕掛けたことでも知られるクラシック。
MC SHAN”THE BRIDGE”をザックリと下敷きにしたビートで、東京勢に激しく牙を剥いたTOKONA-Xの攻撃性がそのまま以降の彼のキャラクターとして定着したことで、結果としてこの上ない代名詞的一曲になりました。
そんな意味で、本編においても特別な一曲であることは間違いありません。
その後、リリースから20周年を機に、ピー音無しのオリジナルリリック・バージョンが2018年に7″化して公開されましたが、蓋を開けてみればもちろん攻撃的なリリックではあったんだけど、別にアーティストを特定した名指しディスではなかったんで、むしろ当時はこのレベルのリリックですらピー音を入れたのかとP-VINEの自主規制振りに少し驚くかも。

折角なんで、12″とオリジナルリリック・バージョンの7″も紹介しておきます。

ILLMARIACHI_NAGOYA QUEENS_表
ILLMARIACHI_NAGOYA QUEENS_裏

ILLMARIACHI”NAGOYA QUEENS”
(P-VINE/JPN 12″/PLP-6325)

A-1 NAGOYA QUEENS
A-2 NAGOYA QUEENS(INSTRUMENTAL)
A-3 NAGOYA QUEENS(A CAPPELLA)
B-1 YOUNGGUNNZ(feat. 茂千代, KENT FROM DESPERADO)
B-1 YOUNGGUNNZ(INSTRUMENTAL)
B-1 YOUNGGUNNZ(A CAPPELLA)

ILLMARIACHI_NAGOYA QUEENS_ORIGINAL LYRICS

ILLMARIACHI”NAGOYA QUEENS”(1997 ORIGINAL LYRICS VERSION)
(P-VINE/JPN 7″/P7-6222)

A-1 NAGOYA QUEENS(1997 ORIGINAL LYRICS VERSION)
B-1 YOUNGGUNNZ(1997 ORIGINAL LYRICS VERSION feat. 茂千代, KENT)

07 “ビートモクソモネェカラキキナ”
M.O.S.A.D.を擁するBALLERSでの弟分、DJ RYOWが2016年にリメイクしたことでも知られる名スキット。
DJ RYOW”ビートモクソモネェカラキキナ 2016″は、”YOUNGGUNNZ”との合わせ技の変則リメイクになるんですが、原曲はTOKONA-Xのフレーズ一発で展開する1分間の短編スキット。
ただ、タイトルにもなっているこの名フレーズ、ほんの一言なのにフックに据えてリメイクしたくなったDJ RYOWの気持ちが分かると言うか、これぞパンチライン!

スキットにも関わらず、”イルマーチ”のEPにも収録されていました。
折角なので、そっちの12″も紹介しておきます。

ILLMARIACHI_イルマーチ_裏
ILLMARIACHI_イルマーチ_表

ILLMARIACHI”イルマーチ”
(P-VINE/JPN 12″/PLP-6326)

A-1 イルマーチ
A-2 博徒九十七
B-1 ビートモクソモネェカラキキナ
B-2 FOR DA BAD BOYS & LADIES(feat. “E”QUAL)

08 “荒療治”
“TOKONAIZM”と共に、「THA MASTA BLUSTA」以前の自主盤12″に収録されていたことでも知られているはず。
LATIN PLAYBOYS”MANIFOLD DI AMOUR”のギターリフを使用した、何ともマリアッチ印なビートに乗ってタイトル通り、中央集権型のシーンに強烈な”荒療治”を施す一曲で、「おみゃあら、東京東京うるせぇし」「ハナから治す気もねぇなら奥歯の一本も覚悟しな、ボンクラ」等、攻撃的なパンチラインが目白押し。
途中に展開されるDJ HAZUのスクラッチとの掛け合いもスリリング!

09 “TOKONA 2000 GT”
ドライブ感のあるシンプルなビートに乗って、名古屋のローカルスポットをTOKONA-Xが独自見解でガイドする地元見聞録的一曲。
小林勝行”感傷の果て”等、直接的な影響を感じさせるような楽曲のみならず、以降の非東京アクトの作品に、このテの「おらが町」的な地元賛歌が収録されるようになったのは、少なからず本作の存在が影響していると思っています。
後年には、DJ RYOWがアカペラを使用し、ILLMARIACHIとの連名名義で2020年にREMIXしたことも記憶に新しいところ。

10 “YOUNGGUNNZ”(feat. 茂千代, KENT)
2016年にDJ RYOWが”ビートモクソモネェカラキキナ 2016″としてリメイクしたことは言うに及ばず、後にOZROSAURUS”YOUNG GUNZ”、MAGUMA MC’S”YOUNG GUNZ 3″として(メンツを刷新しつつも)ナンバリングされて続いていく”YOUNGGUNNZ”シリーズの、記念すべき一曲目。
まだOZROSAURUS、MAGUMA MC’Sとは合流前の時期で、TOKONA-X~DESPERADOの茂千代~KENT(KENT WILD)という布陣になりますが、若手MCを代表するようなサッカーMCスタイルで攻撃的なマイクリレーを披露。
アルバム一枚を通して、とにかくTOKONA-Xの名古屋弁なまりの破天荒で豪傑なキャラクター性が印象深い本作ではありますが、”YOUNGGUNNZ”においては唯一、2番手の茂千代が互角以上にやり合えていると思います(MAGUMA MC’S名義の”YOUNG GUNZ 3″で、RYUZOが引用した「銃撃戦で差は歴然」の名フレーズも茂千代ヴァースから!)。
また、DJ RYOWも流用したJAMES GANG”ASHES THE RAIN AND I”の特徴的なギターリフのみならず、狂気じみたバスドラムの畳みかけるような打ち込みも含め、DJ HAZU作のビートもろともクラシック!
後に、”NAGOYA QUEENS”と共に2018年にピー音無しのオリジナルリリック・バージョンが公開されたことでもお馴染みのはず。

11 “博徒九十七”
劇画タッチのビートに乗ってタイトル通り、博打打ち的な世界観がTOKONA-Xのキャラクターにハマッた一曲。
転調するビートを上で、「切った張ったの大一番なら、赤タン青タンひっくるめて逃さん」と切り込む中盤の展開もスリリング!
2020年には、DJ RYOWがコンセプトだけを継承する形で、またしてもリメイクを敢行しています。

12 “今昔物語”(feat. TWIGY)
BEATKICKSとしてDJ HAZUの前相棒であり、地元の先輩MCでもあるTWIGYとの共演曲。
LAMP EYE”証言”の自身のヴァースを軽く引用する、冒頭のTWIGYヴァースからしてスリリングなんですが、兄貴分と絡むTOKONA-Xの程よく弁えた感じも良き。
ヴァースを交互に蹴るんじゃなく、常にお互いにガヤ入れだったり被せる構成も、彼等の良き距離感が窺い知れるようで微笑ましい限り。

13 “FOR DA BAD BOYS & LADIES”(feat. “E”QUAL)
TWIGYとの”今昔物語”に続いては、まだM.O.S./M.O.S.A.D.メンバーとしてお披露目前だった盟友、”E”QUALをフックアップ。
大ネタ、7TH WONDER”DAISY LADY”をベタ敷きした派手なビートで、彼等流のクラブの正しい遊び方を指南するようなド直球のパーティーチューン!
AKIRAこそ登場しないものの、後にM.O.S.(MASTERS OF SKILLZ)~M.O.S.A.D.へと繋がっていくBALLERSの種として、名古屋シーンにとっては非常に意義深い一曲だと思います。
その辺りの背景を踏まえてか、後に刃頭が自身のクラウドファンディングのリターン品として、BALLERS以降の世代と言えるSOCKS、TOSHI蝮、YUKSTA-ILLを迎えたリメイクも7″のみで存在しています。

14 “MARIACHI(GOLD)”
アウトロで基本的にはラップ無しなんですが、2分過ぎで終幕したかと思いきや、約30秒のブランク明けに”THA MASTA BLUSTA”よろしく、ラストにTOKONA-Xが突如としてノイジーに捲し立てる展開が印象的(けっこううるさい)。
ただでは終わらない感じと言うか、面白い構成ではあると思うんですが、繰り返し聴く分にはちょっと困る仕様になっています。

当ブログはオンライン・レコードショップ『VINYL DEALER』が運営しています。
日本語ラップ、和モノ、ブラックミュージック全般、サンプリングソースほか、”黒み”にこだわったラインナップでやってます。

#npRECORD
シェアする
vinyldealerをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました